【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~詩人 伊藤比呂美さん~」

23/06/02まで
高橋源一郎の飛ぶ教室
放送日:2023/05/26
#文学#読書
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23/06/02まで
2コマ目「きょうのセンセイ」は詩人の伊藤比呂美さん。まずは番組冒頭、源一郎さんが「今夜のコトバ」で話した「家族の呼び方」についてひとしきり盛り上がりました。1コマ目の「ヒミツの本棚」でご紹介した、信友直子著『ぼけますから、よろしくお願いします。』については、信友さんとの意外なつながりについて話してくれました。またこの5月にアメリカに帰られたという比呂美さん、一緒に暮らしていた犬との再会やお孫さんとのふれあいを楽しんできたそうです。「比呂美庵」へのお便りは、少しハードで考えさせられるお悩みでしたが、比呂美さんの経験も踏まえて答えてくれました。出てきたキーワードは「道行き」。詳しくは、この「読むらじる。」で!
【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
伊藤:伊藤比呂美さん(詩人)
礒野:
源一郎さん、2コマ目です。
高橋:
はい。今日のセンセイは詩人の、この方です!
伊藤:
伊藤比呂美です。
礒野:
よろしくお願いします。
高橋:
よろしくお願いしま~す~!
伊藤:
よろしくお願いいたします。
1コマ目の続き①「家族の“呼び方”」は?
高橋:
いやいや、どうでした?
伊藤:
最初の言葉から、しみた。
高橋:
あの名前のやつ?
伊藤:
名前のやつ。
礒野:
呼び方!
伊藤:
呼び方、う~ん。
高橋:
あれ、考えるよね!?
伊藤:
考えますね~。だから、うちはやっぱり「西さん」一択だった。
高橋:
ね! 西さんだったよね。
伊藤:
西さんだった。最初の…、2回目の(笑)。
高橋:
あははは(笑)。ややこしくてね。一般的には最初だけど、実際は2回目だね。
伊藤:
でね、次のはね、結婚してなかったから、「Harold」って言ってたんですけど。
高橋:
ハロル…?
伊藤:
ハロルド。
高橋:
ハロルド。ハロルドね。
伊藤:
むこうはね「比呂美」なんですけど。人に紹介する時にモゴモゴ言うのよ、年寄りだったからさ。30歳上だから。
高橋:
なんて言うの?
伊藤:
だから言えないわけよ~。「This Lady」みたいに言ってるわけ!
高橋:
あぁ(笑)。
伊藤:
でもね「ちょっとね、いい? パートナーって、言ってごらん」って。口開けて「パー」「P」よ、最初は! みたいな感じで教えるんだけど、なかなか言えなくて。つまりほら、「ワイフ(妻)」じゃないって意識があるわけ。
高橋・礒野:
あ~!
伊藤:
それがね、なんかね~。
高橋:
あれ? なんだっけ。結婚していた元妻の人と…、離婚したんだっけ?
伊藤:
してないのよ。
高橋:
してないんだよね。だから「ワイフ」はいるんだよね。
伊藤:
「ワイフ」はいるんです。
礒野:
いろいろ複雑ですね(苦笑)。
高橋:
「事実婚」なのね?
伊藤:
事実婚なの。でね、なんかね、その「ワイフ」って言葉が言えなくて。私なんか平然と「つれあい」って言ってますけど、書く時はね「つ・れ・あ・い」より、「夫」の一文字のほうが字数が少ないじゃない。
高橋:
字数ね(笑)。
伊藤:
だから「夫」「夫」って書いてるんですけど(笑)。
高橋:
う~ん。
伊藤:
それができなくて。だからね~、なんだろう。うっとうしかったよね、言えないのが。
高橋:
「呼び名」って難しいよね。
伊藤:
難しい、ホントに。だから西さんが私のことなんて…。西さんて2番目の夫ね。
高橋:
2番目の(笑)。
伊藤:
彼が私のことをなんて言ってたのかを…。
高橋:
覚えてる?
伊藤:
覚えてない…。
高橋:
「比呂美」じゃない?
伊藤:
いや~それもね、私には…。あっ、そうそう! 日本人だったから「お父さん、お母さん」。
高橋:
えっ!?
伊藤:
お互いに「お父さん、お母さん」だった。
高橋:
って、言ってたの!?
伊藤:
お互いに呼び合う時は。
高橋:
えっ、そうなの?
伊藤:
それね、やっぱり、いけませんよ。
高橋:
いけませんよね。
伊藤:
やっぱり、いけませんよ。
高橋:
なんか変ですよね。
伊藤:
「お父さん、お母さん」じゃない…。
高橋:
「お父さん、お母さん」じゃないじゃん、ね! “間柄”は。
伊藤:
「お父さん、お母さん」ていう感じで…。
礒野:
でもそうなる方、多いんじゃないですか? お子さんがいるとね。
高橋:
そう、そう、そう、そう。だから視点が子どものところに…。
礒野:
「子ども目線」で。
伊藤:
いつも「川の字」みたいな。
高橋:
あぁ…。かわいいけどね。
伊藤:
かわいい?!
高橋:
いや、いや、いや(笑)。なんだ、その格好は…。なるほどね~。
礒野:
源一郎さんて「こういうふうに呼んで~!」とか、「源ちゃんでいいよ!」とかって言わないんですか?
高橋:
言わない、言わない。別にリクエストはしないもん。
礒野:
へぇ~!
伊藤:
私ね、それで大学で教えていた学生たちに、ある時点から、した!
高橋:
え?
伊藤:
「もう、先生やめようか~!」みたいな。
高橋:
「先生」って呼ばれてたんだ?
伊藤:
最初の頃は呼ばれてて。「先生」って言ってたのが、ある時点から「もう、やめよう」ってことになって、なんでもいいから「伊藤さん」でも「比呂美さん」でも「比呂美ちゃん」でもって。
高橋:
僕さ、最初は「先生」って呼ばれてたのが、すぐ「先生」って言われなくなってさ。
伊藤:
あぁ、ホントに~。
高橋:
すぐ「源ちゃん」になったんだよ。
礒野:
へぇ~~~!
伊藤:
呼ぶ時も? 「源ちゃん」って?
高橋:
そうだよ。
礒野:
あははははは(笑)。すごい!
高橋:
年齢が40も違うんだよ、だって。僕60でさ、むこうは18とかでさ。
伊藤:
だけど、ご本人は知らないかもしれませんが、あなたは、あなたのいないところで、確実に「源ちゃん」って言われてますからね。
高橋:
あ~、そうですよね~。
伊藤:
そう。で、私も「源一郎さん」って、いつも言ってるでしょ。
礒野:
うん、うん。
高橋:
源ちゃんだね(笑)。
伊藤:
「源ちゃんがね…」って(笑)。
礒野:
ほかの方としゃべる時は!?
高橋:
あ~でもね、考えてみたら、中学の時から「源ちゃん」て呼ばれてたからさ。
伊藤:
あ~、ホントに~!
高橋:
だから結局ね、変わらないんだよね~。
伊藤:
う~ん。
礒野:
比呂美さんは学生さんに、なんて呼ばれてたんですか? 「比呂美ちゃん」とは、さすがに…?
伊藤:
最後の1年ぐらいになってから、最後の1年って5年目ね、もう。「比呂美ちゃん」とか「ひろみん」とか言われてましたね。
高橋:
僕、さっきも言ったけどさ、「タカハシさん」っていうキャラクターを作ったんだよ。あの~、便利だから。そういうのは無いんだっけ?
伊藤:
私ね「シロミ」っていう…。
高橋:
あっ、「シロミ」っていたよね。アレは誰?
伊藤:
だから「私にとても近い誰か」ですよ。
高橋:
そうか! 僕の「タカハシさん」みたいなもん?
伊藤:
そうそう、「伊藤シロミ」っていう。
礒野:
やっぱり皆さん、そういう存在を作るんだ~!
高橋:
いるいる。あるんだよね~。
伊藤:
すっごい近いんですけど。
高橋:
ちょっと違う?
伊藤:
うん、ちょっと違う。
礒野:
理想なんですか?
高橋:
ちょっと「いい人」だよね? 現実よりも。
礒野:
自分よりも?
伊藤:
っていうか「私よりも頑張ってる!」みたいな。
一同:
あははははは(笑)。
高橋:
なんだよ、それは(笑)。
伊藤:
私はさ、ちょっと邪悪が入る(笑)。
礒野:
いいな~、そういうふうにできて~(笑)。
高橋:
なんかね~、理想っていうよりも、自分より「もうちょっとイイ感じ」にした…。
伊藤:
て言うか、「書きやすい人」。
高橋:
そう、そう。書きやすい人ね~。
高橋:
「邪悪」なのは難しいけどね~。
伊藤:
そう、そう、そう。
高橋:
すいません、こんな話をして…。
1コマ目の続き②「ヒミツの本棚」どうでした?
伊藤:
信友さん、信友さん!
高橋:
あっ、信友直子(のぶとも なおこ)さんは?!
伊藤:
私ね、信友さんの「映画」は見てるんですけどね。えっとね、コロナの始まる直前に、ロンドンでご一緒してたんですよ。
高橋:
え? なんで、なんで?!
礒野:
親交がおありなんですか?
伊藤:
なんかね「日本文化フェア」みたいなのがあって、そこに作家たちや信友さん…。でも、本があったのかな? とにかく「映像」で持ってきてたような気がする。
高橋:
あ~、そっか。年齢はまぁちょっと下か?
伊藤:
ちょっと下。そしてほら、私も「介護」のこと書いてるから。そういうわけで非常に楽しく、数日間。
高橋:
数日間。
伊藤:
朝ごはん食べて。ちょっとビールかなんか飲んで。それじゃあ「さよなら」って言って、日本に帰ってきたら、コロナで全部なくなった。
高橋:
なくなったのね…。
伊藤:
そういうわけです。だから本当にしみじみしますよね~。さっきのほら、「させてくれた」みたいな?!
高橋:
そう、そう、そう。
伊藤:
介護ね。ホントに、それ感じたもの~! なんかね「苦労」なんですよ。すごいね、苦労は苦労なんだけど。でもね「本当にしてよかったな~!」みたいな。
礒野:
ご自身の経験から、比呂美さんの?
伊藤:
そう。で、これ「わざわざ、やっぱり、させてもらったな~」と思って。特に「シモ」のね、始末がね。私はそんなにしなかったんですよ。でも何回かしたから「アレさせてもらって良かったな~」って思った。
礒野:
その当時、そう思えましたか?
高橋:
当時は?
伊藤:
当時は…。
高橋:
大変だよね?
伊藤:
粛々とやってたから、割とすぐ思いましたね。うちには犬もいたから、犬なんてホントに「シモの世話」しかしないから。本当にそれはね、私たちが関わる上で、すごい大切なことだったよね…。
高橋:
僕は「介護」はほとんどやってないので、ただ子どもね。子育てする時、赤ん坊がまた「シモの世話」ばっかりだから。
伊藤:
そう、そう。
高橋:
だから「同じ?」。立場としては逆だけど。
伊藤:
うん。
高橋:
なんか僕が信友さんの本を読んでて、自分では介護のことはそんなにわからないから。でも子育てしてる時は、コレだよね?
伊藤:
そう! 私、書いたもん。『とげ抜き―新巣鴨地蔵縁起』に。あのね、親のお尻をふいてて、そのにおいがとても臭いと。で、昔ね、同じようなことをやって、あれはもうすごいね、なめたくなるような…。
高橋:
そう。子どもの…。
伊藤:
うんち、だった。
礒野:
赤ちゃんの…。
高橋:
そう、そう、そう。
伊藤:
やっぱりすごい「つながる感じ」ね!
高橋:
そう、そう、そう、そう。
伊藤:
「つながって、戻っていく」感じで。
礒野:
う~ん。
高橋:
だから、すご~い時間を経て…。
伊藤:
Exactly!(その通り!)
高橋:
すごいまた「元へ戻って」。
伊藤:
そう、そう、そう、そう。
高橋:
このループがまた先へ続いている。
礒野:
「生きる」って、そういうことなんですね~。
高橋:
「命」って、そういう…。だから親子って割と「0歳から20歳まで子育てして、完了して、家を出る」っていう。そうじゃないんだよね?! なんかね。
伊藤:
うん、うん。そう。
礒野:
必ず戻ってくるんですね。向き合う時がくる…。
伊藤:
「戻れる」みたいな…。そして、最近すごく言ってるのは、20代の初めのころに「なるべく親をガッカリさせとけ!」って言ってるんですよ(笑)。
高橋:
あははは(笑)。
伊藤:
でね、それをやっておくと、家を出て戻った時に、もう1回「対じ」したときに「距離が取りやすいかな」って。
高橋:
ずっといたら、ダメだね。
伊藤:
そう、そう。
高橋:
逆に。ず~っと近いところにいたら…。
礒野:
近くにいて、仲良しじゃダメですか?
伊藤:
親がね「ダメだ~。私、子育て失敗した~」って思っとくと、あとで楽なような気がする。
礒野:
あっ、へぇ~!
伊藤:
過度な期待は「あの子にできないだろう」みたいなのはあるし。
礒野:
「こんなにしてあげたのに」とか、思わないっていうことですかね?
伊藤:
そう、そう、そう、そう、そう。
高橋:
伊藤さんも結局、戻ったよね?
伊藤:
戻ってね、ホントに。う~ん。
比呂美さんの「近況」~この1ヶ月は、なにを?~
礒野:
比呂美さん、この1ヶ月、いかがでしたか? どうしてたんでしょうか?
伊藤:
アメリカに行ってきたんですよ~。あ~、でもアメリカ2回目だったの。2回目って、なんていう言い方をしてるんだ(笑)。
高橋:
な、な、2回目って、なにが2回目なの? あははは(笑)。だって、もともと住んでたじゃん。
伊藤:
だからね、コロナで行ってなかったでしょ。
高橋:
あっ、そっか~。いつ以来?
伊藤:
2月に…。ホント、コロナ以来。信友さんと会ったイギリスは、ホントはアメリカに帰りたいんだけど。
高橋:
コロナの前か。
伊藤:
まぁ、“イギリスに行かなくちゃいけない”からっていうんで、アメリカに行かないで、イギリスへ行って帰ってきたら、行かれなくなってたんですよ。
高橋:
あ~。
伊藤:
でね、犬がね、私もう1匹いて。むこうにおいてきたのが。
高橋:
預けてるんだよね、確か?
伊藤:
娘が面倒を見てるんだけど、まぁ犬ってホントにね、なんか「浦島太郎の箱を開けたような感じ」だったんですよ。
高橋:
えっ?
礒野:
どういうことですか?!
伊藤:
もう年とっててね、17歳で。
高橋:
何年会ってなかったっていうこと?
伊藤:
だから4年間。
高橋:
そうか! 犬の4年って、すごいよね!
礒野:
大きいですね。
伊藤:
彼的には、もうね「お母さんは死んだ」と思ってたと思うんだよね(笑)。
礒野:
比呂美さんのことを?!
伊藤:
2月に行った時、「あっ! 生きてたんだ~」って。
高橋・礒野
あははははは(笑)。
伊藤:
ホント! 「お母さん、死んだと思ってたけど、生きてたんだ~!」
高橋:
そんな反応だった?!
伊藤:
ホントにそうだったの。
礒野:
覚えてるんですね~。
高橋:
ビックリした?
伊藤:
ビックリして! で、来るんですよ。帰る時になると、私のあとをついて歩くの。今回はわかってて、行った時にね「やっぱり死んでなかった」みたいに見て。
高橋:
あははは(笑)。
伊藤:
で、すぐ、あとをついて歩き始めたの。
高橋:
へぇ~。
伊藤:
だから連れてこようと思ってね。
高橋:
いくつだっけ、今?
伊藤:
17歳。
高橋:
だから人間で言うと90とかだよね?
伊藤:
いや、123歳ぐらいじゃない?
高橋:
あははは(笑)。
礒野:
うゎ~! だいぶ高齢ですね~。
伊藤:
もう目は見えないし、鼻もきかないし、耳も聞こえないし。ゆっくり歩いて、もうホントにね、「クソじじい~!」みたいな態度なんですけど(笑)。やっぱね、あれを、やっぱなんか、もう…。
高橋:
すごい存在感だね。
礒野:
へぇ~~!
伊藤:
そしてその4年間に、ちっちゃかった子どもが、シュッと伸びてて。
高橋:
孫ね!
伊藤:
10歳になってて。
礒野:
あっ、お孫さん!
伊藤:
おもしろかったな~。
礒野:
子どもの4年も大きいですもんね~。
伊藤:
大きいですよ~!
高橋:
どんな感じの子になっております~? 今は。
伊藤:
「発達障害」があってねぇ~!
高橋:
楽しそうに言うね(笑)。親は大変。
伊藤:
うちはみんなそうだから~! 誰も驚かないのよ。で、英語しかできないんですよ、もちろん。
高橋:
日本語は家の中で…。家族とはしゃべらないんだ?!
伊藤:
最初は娘がやってたんだけど、やっぱりなくなっちゃってね。でね~、でも私「本当に英語やってて、よかった~!」って思った(笑)。
高橋:
英語でしゃべるしかないんだ? 孫と。
伊藤:
よく聞いてくれるの! このなまった英語でも。ところがね、学校へ連れてった時にね、「じゃあね~」って言ったら、「じゃあね~」って返してくれたの~!
高橋:
え~! 日本語で?!
伊藤:
「キュ~ン」としてね…。「じゃあね~」を、もう1回聞きたいわ~とか思って!
礒野:
へぇ~!
高橋:
普通にさ、孫と祖母だね(笑)。
伊藤:
うん、そうね(笑)。
高橋・礒野:
あはははは(笑)。
伊藤:
で、「どう呼ばれてるか」って…。
高橋:
あ~、どう呼ばれてるの? そうそう「グランマ(祖母を意味する「grandmother」の口語表現)」?
伊藤:
いや、そんな…。
高橋:
あははは(笑)。
伊藤:
気持ち悪い(笑)。でね、最初に提案したのが「ババア」っていうはどうかって言ったらね。
高橋:
あははは(笑)。
伊藤:
そしたら面白いのは、日本語がわかる人のそばで「ババア~!」って言われたら、どういう「しつけ」してるんだって思われるから、やめてくれって言うんで(笑)。
礒野:
確かに良くないですね(笑)。
高橋:
うん(笑)。
伊藤:
それで「ババ」。
高橋:
ババ、ね。
礒野:
短く!
伊藤:
「ママ」と同じような「ババ」。
礒野:
ババ!
高橋:
それ、いいよ! うちの子どもたちも、義理のお母さんのことを「ババ」って言ってますから。
伊藤:
ホント?! 「バァ~バ」じゃないの?
礒野:
伸ばさずに?
高橋:
「ババ」って言ってました。ババさんです。
伊藤:
ババ。
礒野:
「ひろみん」ではなかったんですね?
一同:
あはははは(笑)。
毎月恒例「比呂美庵」のお時間です!
礒野:
さて、源一郎さん、伊藤さん、そろそろ恒例のコーナーにまいりましょう!
高橋:
あ~、はい、はい、はい。
伊藤:
はい。
高橋:
恒例のコーナー、まだあったんですね。伊藤さん、ここは?
伊藤:
ようこそ! 「比呂美庵」へ。
高橋:
やる気になってるじゃない(笑)。
伊藤:
読んだんですよ(笑)。
高橋:
あ~、読んだ。はい、はい。
礒野:
きょうもお時間の限り、お便りを紹介してまいります。
京都府にお住まいのラジオネーム「にっこ」さんからいただきました。ハガキで。
比呂美庵へ初投稿します。3年前にいとこが自殺しました。いとことは長く会っておらず、年賀状やお歳暮くらいのつきあいでしたが、その死はショックが大きく、私は心身に支障をきたしたほどでした。遺書には「生きている意味が分からなくなった」と書いてあったそうです。“生きている意味”。時々考えるのです。もし今そんな問いかけをされたとしても、答えはわかりません。わからないけど、わからないから生きているとしか言いようがありません。もしかしたら自殺の原因は他にもあったのかもしれないですし、もっと複雑な事情があったのかと思ったりもしています。源一郎さん、比呂美さん、「生きている意味」を聞かれたら、なんと答えますか? また、おすすめの本がありましたら教えてください。
高橋:
僕からいきますか?
伊藤:
はい、どうぞ。
高橋:
実はね、これ、ほぼ同じ質問を新聞の人生相談で。
伊藤:
まぁ、いつ?
高橋:
割と最近あって、答えたばっかりなんですけども。
礒野:
はい。
高橋:
いろんな言い方ができるんですけど、あの~、僕ちょっと「例」を出したんですよ。えっと、僕が初めて「デモ」をして捕まった時に、ず~っと、まぁ2週間…。23日間いたんで、あれ、全く身動きできずに座ってるだけだからさ。
礒野:
ええ。
高橋:
ちょっとね…。「無理、死ぬ」と思って。「地獄」だと思って。そしたら、ちょうど10日目にホームレスのおじいさんが入ってきて、1日いて、「兄ちゃん、ここ天国やな~」って言って。
礒野:
ええ~?!
高橋:
雨、風は平気だし。ご飯は出てくるし、なにもしなくていいし。「天国やな~!」って言って、ガクッとしたことがあって。で、新聞の人生相談の返事に書いたのは、僕20年ぐらい前によく競馬の取材に、ヨーロッパに行ってて。
礒野:
はい。
高橋:
え~と、その時に仲よくなったアイルランド貴族が、超大金持ちの。
礒野:
うん、うん。
高橋:
仕事をしないんだよね。だからいつも「狩り」をやってね。
礒野:
ええ。うゎ~、貴族っぽい(笑)。
高橋:
で、アルコール依存症なのよ。
伊藤:
え?!
高橋:
することないから、ずっと酒ばっかり飲んでるから。それで「僕は作家です」とか言って仲良くなったら、「いいね~、俺たちの仕事は地獄だよ」って言って。
伊藤:
あ~。
高橋:
することがないから。
礒野:
アイルランドの貴族の?
高橋:
うん、貴族の人が。で、その人ね、3年後ぐらいに猟銃で頭を撃って自殺しちゃったの。
伊藤:
あら~。
高橋:
まぁまぁ、こういう話ってよくあるから。だから、人生って「それが良いか悪いか、決めるのって自分だからさ」。ある人にとっては、同じ場所でも「天国」になるし。
礒野:
そうか。源一郎さんが「地獄」と思ったところが「天国」だと思う人もいるし。
高橋:
僕は「天国」だと思ったところが「地獄」の人もいるし。その人が決めてるんだよね。自分で決めるしかないんだから。
伊藤:
うん。
高橋:
あの~、これさ「生きてる意味」って、言われても、「答えなんてない」わけだからさ。っていうか「意味はない」からね。
伊藤:
私ね、親の死んでいくの見てたでしょ。それこそ、信友さんのね、ああいう状態で。でね、みんなね、2人とも「鬱(うつ)」の時があったんですよ。
高橋:
あ~。
伊藤:
「鬱」になると、「あ~死にたい」とか「いっぷく盛ってください」とか、先生に言ってるのね。盛ってくれないんだけど。で、「鬱」が無くなると、生きるんですよ。
高橋:
そうなんだよね~。
伊藤:
苦しいことがあったらすぐ呼ぶしね。食べたがるしね。つまりね、見ててね、「人間てね、あぁ死ぬまで生きるんだな」と思ったんです。
高橋:
うん、うん、うん。
伊藤:
それは、犬を見てても、死ぬまで生きるわけ。うちの“つれあい”もね、鬱の時は、ほら「安楽死」がOKだったから、「安楽死」するとかって言ってたのね。ところが、じゃあもう家に帰ろうっていうんで、連れて帰ろうとしたら、その途中にね、「青空」を見たんですね。なんか「青空」を見たら、「また生きたくなった」って言うのね。
高橋:
いやいや、ホントそうだと思うよね。
礒野:
繰り返し…。
伊藤:
そう。「死ぬまで生きる」っていう。「それが生きるってこと」なんだなと思ったんですよ。ただ私自身も鬱になったことがあってね。もうね、死にたくてしょうがなかったの。で、実際ね「自殺願望」ってあったしね。でもね、その時ね、苦しかったんですよ。やっぱりね「自分をね、消そう」っていう気持ちって、すごい苦しいの。「これ、病気だな」と思ってね。これ絶対、こんなに苦しかったら手当てしなくちゃいけないっていうのは、ちょっと良くなった頃に思ったんですけどね。だから、鬱の人は、たぶん自分を殺すようなこともしてしまう?
高橋:
そうだね~。
伊藤:
そういう病気もある。そして鬱じゃない時には「死ぬまで生きてんだな~」って。で、あと、私も本当に最近これ多くって。同じような相談があって。このあいだやったライブの人生相談ね。140人ぐらいいて、4つ同じような。言葉は違うんですけど。
礒野:
こういったご相談だったんですね~。
高橋:
いや、本当にね、「意味があるから生きてるわけじゃない」ので。
伊藤:
私そのためにね、よく言ってるのは「日没を観察しましょう」って。日没を見てると、いいんですよ~。
礒野:
日が沈むのを?
高橋:
あれは気持ちいいよね~。
礒野:
「日の出」じゃなくって?
伊藤:
日没のほうが面白い。つまり「死と同じ」だから。で、死んでまた次の日は出て…。
高橋:
出てくるじゃない!
伊藤:
出てくるから。
礒野:
あ~、そういう。
伊藤:
あとね~、ちっちゃいね、ちっちゃい、この…。
高橋:
生き物?
伊藤:
草花がいい。
高橋:
いいね。
伊藤:
楽だから。それを育てるの。
高橋:
あ~、それもいいね~。
伊藤:
私が本当に鬱で死にたかった時は「動いてた」。いつも!
高橋:
あ~。
伊藤:
スポーツやって。
礒野:
体を動かして。
伊藤:
自転車に乗って。あるいはジョギングして。水泳して。それから旅行へいって。いつも飛行機に乗って。それがね、たぶんね「道行き」ってことだと思うの。日本文学の。
高橋:
意味があるよね。
礒野:
「道行き」?
伊藤:
うん。
高橋:
よくね、あれはね「自殺」みたいなことにされてるけどね。
伊藤:
そうじゃないですよね。あれはね「文楽」の。近松門左衛門が、そうもってっちゃって。それまでの「道行き」は、おそらく「生きるため」だったと思うの。
高橋:
動いてる限り、死なないもんね。
伊藤:
そう。
礒野:
あえて動かして、体をね。
伊藤:
新しいものを見るから。
高橋:
そう、そう、そう、そう。「見たことがない風景」がある。だから、よく…。なんかで読んだことがあるんだけどさ、「まだ見たことがないものがある」と。
伊藤:
あぁ。
高橋:
そう思うと、見たいじゃない?!
礒野:
えぇ。「どんなものかな~?」って。
高橋:
そう、そう、そう。
伊藤:
着たことがないさ、「なんとかの反物で、夏まで生きていようと思った」とか。
高橋:
太宰治ね(笑)。そう、そう、そう。だからね「まだしてないこと」とか「見たことのないもの」がある限り。だから「意味じゃなくて」。「まだ見たいな」と。
礒野:
うん、うん。そういう希望というか、欲求というか!
伊藤:
でも本当に鬱になっちゃったら、見たくないでしょ。
高橋:
そうなんだよね~。
礒野:
残り時間が少ないんですけども、源一郎さん、「おすすめの本」があれば、ということでしたが、いかがですか?
高橋:
本はね~。
伊藤:
わかんない、それは。授業でもさんざんやったんですけどね、例えば、太宰治みたいなものを読んで「毒をもって毒を制する」みたいな。っていうのもアリだけど。
高橋:
いや~、本よりね、どっか出かけたほうがいいよ!
伊藤:
うん。動いたほうがいいような気がする。旅行ですね。
高橋:
ね~。
伊藤:
旅行っていうか、まぁ「旅」ね。旅行っていうよりは旅。旅っていうよりは「道行き」。
高橋:
「あてのない旅」を!
礒野:
旅行は行程が決まっているっていう意味合いで、今?
伊藤:
まぁ行程が決まっててもいいんですよ~。体が動いてりゃいいの。
高橋:
そうそう。どっか行く。移動する。
伊藤:
コンビニへ行くんでも、いいですよ。
礒野:
いいですか?! あっ、そう思うとなんかハードルが低くて…。
高橋:
吉行淳之介さんのエッセーに、えっと『街角の煙草屋までの旅』みたいな。
伊藤:
あぁ。
礒野:
へぇ~。
伊藤:
それでいいじゃない。
高橋:
それ作家らしいでしょ? 普通はただ行くだけだけどさ。「それが旅なんだ!」と。
礒野:
お隣に行くのも!?
高橋:
そう、そう。そのわずかな距離が、そうね~「大きい旅」だっていうふうに考えられると、全ての時間がそういうもので埋まっていくでしょ?
礒野:
ええ、ええ。
高橋:
僕はあんまり「死にたいと思ったことがない」んだよね。
伊藤:
だから、それは特殊事情だって、それは~(苦笑)。
礒野:
ラジオネーム「にっこ」さん、いかがでしょうか? ありがとうございました。
高橋:
参考になるんでしょうか? ホントに。我々の答えで。
礒野:
「比呂美庵」、6月は23日、金曜日にご出演です。
伊藤:
よろしくお願いしま~す。
高橋:
よろしくお願いしま~す。
【放送】
2023/05/26 「高橋源一郎の飛ぶ教室」
放送を聴く
23/06/02まで