【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~伊藤比呂美さん×鈴木涼美さん~」

23/02/03まで
高橋源一郎の飛ぶ教室
放送日:2023/01/27
#文学#読書
放送を聴く
23/02/03まで
2コマ目「きょうのセンセイ」、今回は伊藤比呂美さんと鈴木涼美さんのお2人にお越し頂きました。元日の「新春!初夢スペシャル」では、鈴木さんはスタジオ、伊藤さんはリモートでのご出演でしたが、今回はお2人ともスタジオにて! お正月の振り返りから始まり、「なぜ小説を書くのか?」という伊藤さんの問いに鈴木さんは・・・?? お話がはずみ過ぎて、なかなか「比呂美庵」にたどりつけませんでしたが(笑)、「比呂美・涼美庵」として開店、いつもとはまた違った味わいのものとなりました。
【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
伊藤:伊藤比呂美さん(詩人)
鈴木:鈴木涼美さん(作家)
毎月恒例のコーナー「比呂美庵」。きょうは・・・?!
礒野: |
源一郎さん、そろそろ。 |
高橋: |
そろそろ、え~と、なんだっけ? どこだっけ? |
礒野: |
恒例のコーナーにまいりましょう! |
高橋: |
あ~、はい、はい、はい~。恒例のコーナーです! え~と、伊藤さんここは? |
伊藤: |
ようこそ! 「比呂美・涼美」庵へ!! |
高橋: |
あ~、やった~!(一同、拍手) |
鈴木: |
わ~い! |
高橋: |
「比呂美・涼美庵」ね(笑)。似てるね、名前。 |
伊藤: |
似てる。 |
礒野: |
どんなお便りでもご紹介する「比呂美・涼美庵」。 |
高橋: |
比呂美・涼美庵(笑)。 |
礒野: |
早速、お便りをご紹介していきま~す! 京都府にお住まいの「ラジオ大好き」さん。40代の女性です。 高校1年生、16歳の1人娘がいます。最近、気分の落ち込みが激しいことが多く、生活リズムが安定しません。娘は保育園時代から紙芝居や絵本などで戦争のお話が出てくるととても敏感に反応し、涙を流すような子どもでした。平和を願う気持ちが強く、ロシアのウクライナ侵攻以降、毎日ピースマークのネックレスを身につけています。そんな娘ですので、最近の世界情勢の緊張の高まりに、怖いという気持ちが強くなり、眠りにつけない夜もあるようです。以前、源一郎さんが「どうしたらいいか、わからない時は本を読むといい」と、おっしゃっていたと思うのですが、こんな娘になにかお勧め頂ける本があれば教えてください。 |
高橋: |
じゃあとりあえず僕からいきます。えっと最近、娘と母親だと、全部、鈴木さんを思い出す(笑)。 |
伊藤: |
あははははは(笑)。 |
高橋: |
お母さんなら、なんて言っただろうってさ。「自分で本を選びなさい」って言ったかなとかさ。 |
鈴木: |
あ~。 |
高橋: |
正直言ってね、どんな本でもいいんですよ。つまり、このお嬢さんは、すごくセンシティブ。感受性が豊かで、外界に反応しちゃってんだよね。で、落ち着くためには、なんか一旦、言葉を読んで落ち着くのがいいと思います。だから正直言ってなんでもいいんですが、せっかくいま戦争っていう言葉に特に傷ついてるっていうか、震えているなら『ぼくらの戦争なんだぜ』っていう本を出して、その時にも書きましたがね、あのまぁ「太宰治っていう作家は、生涯ずっと戦争中だった」って。それはね今回初めて本に書きましたけど、デビュー作から、1948年に亡くなるんですけど、ほとんど全部…。娘さん怖がってるけど、太宰って人は、ずっと怖い状況の中で、子どももいたしね。だから太宰治の作品をなにか、まぁ戦争が出ているものでもいいし、出てなくても戦争中に書いてるんで、このおじさんは、お父さんより若いね、たぶんね。このおじさんは戦争中にこんなことを書いて、子どもたち…。あっ、子どもたちに書いたものもあるね。『お伽草紙』とかね。だから、そういうのを読むと、これはこの戦争中に、子どもたちに「怖がらないように」って書いたもんだよっていうので、太宰治なんかいいかなぁというふうに思います。まぁなんでもいいですけどね。 |
伊藤: |
涼美さんは? |
鈴木: |
私がまずこれ聞いた時、この娘さんすごい感度高くないですか? けっこうひと事っていうか、バーチャルにしか見えなかったり、冷笑的になったり。“いや、必要だから”みたいになっちゃう若者も。割と刺激に慣れてるから、でもだから戦争で心が乱れちゃう感性は無くさないでほしいなって思ったんです。 |
高橋: |
いやホント。16歳ね。高1。 |
鈴木: |
お勧めっていうか、私はだから「戦争が関係あって明るいもの」がいいなと思って。 |
伊藤: |
例えば? |
鈴木: |
井上ひさしさんの『一週間』っていう、割と…。 |
高橋: |
短編? |
鈴木: |
いや…。 |
高橋: |
長編なんだ。 |
鈴木: |
けっこう長いですけど、分厚い、新潮文庫だと1冊にはなってるやつで。あの人のは笑えるから、けっこう止まらず読めるんですよ。で、なんか気持ちは明るくなります。扱ってるのはけっこう戦争中の「シベリア抑留」みたいな話なんですけど。たった1週間のことを、こんな分厚い本に書いてる…。 |
礒野: |
へぇ~! 『一週間』、井上ひさしさん。 |
伊藤: |
はい!(挙手) |
高橋: |
手を挙げなくても、次は君の番だから(笑)。 |
伊藤: |
これさ(相談メール)、だって、だいぶ前にきたでしょ。ずっと気になってたの。 |
礒野: |
ちょっと数か月ね、前にいただいたお便りだったんすけどね。 |
高橋: |
ぜひ応えようと! |
伊藤: |
私は、私は、お勧めは『鋼の錬金術師』です。 |
高橋: |
あ~! |
伊藤: |
すいません。漫画になりました。そしてね、そう思ってたら、このあいだ源一郎さんが話題に出した、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ね。 |
高橋: |
うん、うん。あれね! |
伊藤: |
私、アニメで観たんですけど、あれ、むっちゃお勧めなんですよね。 |
高橋: |
あれはいいね~! |
伊藤: |
それ考えたら、もう1つお勧めしたいのが『SPY×FAMILY』。 |
一同: |
あ~~~! |
伊藤: |
それね、なぜかって言うと、この3つに共通しているのは、「戦後の話」なんですよ。 |
高橋: |
あ~。 |
伊藤: |
「戦争のあとに、どうやってトラウマを抱えたものを、どうやって生きていくのか」って話なのね。 だって私、本当にずっとこの人のこと考えて、この16歳のことをずっと考えてたの。ここのところ。 |
高橋: |
“ひとごと” とはと思えなかったよね。 |
伊藤: |
本当に、うちの娘もこんな子だったし、うちの孫もこんな子だし。あぁなんか『ハガレン』を読ませてあげたいなとか、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』観てて、あぁこれはあの子に観せてあげたいなと思ってました。 |
礒野: |
だそうです。「ラジオ大好き」さん、よろしいでしょうか? たくさんヒントを頂きました。 |
伊藤: |
なんでね、いまね、こうやって日本のマンガって、戦後。「戦争後」のアニメが多いんですか? |
高橋: |
多いよね。 |
伊藤: |
多いよね。 |
高橋: |
無意識じゃない? |
伊藤: |
“なんのあと” なの? |
高橋: |
なんか「戦争が近い」か…。「戦後感」があるのか? 戦争が迫ってるのか?「戦争の影」みたいなものが…。 |
伊藤: |
「戦争っていうのが、なにかのトラウマの代わりになっている」と思うの、私は。 |
高橋: |
あ~、なるほどね。 |
伊藤: |
それで日本の文化っていうのが「戦後」っていうのにロックオン…。でもこれって「第二次世界大戦」じゃないじゃない? |
高橋: |
ないね。 |
伊藤: |
だから「架空の戦争」なんですよね。 |
高橋: |
そうそう。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』いいよね。 |
鈴木: |
『風の谷のナウシカ』とかも。 |
高橋: |
あ~! そうだ~!! |
伊藤: |
私もそれ考えてた。忘れてた、言うの。そうだ、そうだ! あれは戦争中から戦後にかけてだもんね。 |
鈴木: |
そう! なんか『火の7日間戦争』みたいなのがあって、めちゃくちゃになっちゃった世界の話ですよね。 |
伊藤: |
ね! 最後はもう「戦後」。 |
高橋: |
そうだ、僕、この前『ぼくらの戦争なんだぜ』で書けなかったんだけどさ、要するに「戦後文学」って、偉い人がいっぱいいたじゃない。 |
伊藤: |
うん。 |
高橋: |
でも本当に戦後文学っていうのは、そういう『ナウシカ』とかさ、あちらのほうが説得力があるような気がするんだよね。 |
伊藤: |
そうね~。でも『ナウシカ』は80年代か、90年代でしょ。『鋼の錬金術師』は2000年代、あとの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が…。 |
高橋: |
2010年代。 |
鈴木: |
まさにいま。 |
伊藤: |
いまだよね~。なんか、ずっと続いてるわよね。 |
礒野: |
比呂美さん、どうしましょう? コーナーの残りがあと1分ほどなんですけど…。いっちゃいます? |
高橋: |
じゃあ、相談だけ読んで。 |
礒野: |
いきましょう。 「プリプリ」さんからいただきました。 夫と私は20代後半に海外を旅していた時に出会いました。自由でおおらかなところにひかれましたが、子どもが生まれると、頼りない無責任と、長所が短所に感じられるようになりました。彼は物書きになりたいとずっと言っていて応援してるんですが、すぐ仕事を辞めてしまいます。仕事しながらでは書けないと。お互いに自立するためには私が子どもを連れて出ていくしかないと思ってます。でも生活のための仕事と好きなことを両立できるだろうかという、腹を立てた同じポイントで悩んでいる。 ということなんです。 |
高橋: |
はい。 |
礒野: |
どうしましょう。 |
高橋: |
子どもを連れて、出てってください。 |
伊藤: |
え? |
高橋: |
駄目ですよ、一緒にいたら。この人は。 |
伊藤: |
それ、自分の経験から言ってる? |
高橋: |
だから、いまのままでは、夫も全力を出せない。 |
伊藤: |
なるほど。 |
高橋: |
1回、全力を出させてやるために、1回別れてあげたほうが、全力を出せる。だって全力出す気なくなっちゃっうんだもん。いまは言い訳できるから。 |
伊藤: |
同じような形で、離婚した? |
高橋: |
僕のことは関係ない(笑)。 |
礒野: |
比呂美さんはどうですか? |
伊藤: |
私はそういう形では離婚しませんよ。 |
高橋: |
別にそんなことは聞いてないけど(笑)。 |
礒野: |
応援したほうがいい、支えてあげたほうがいいってことですか? |
伊藤: |
この人ね、やっぱり離婚したほうがいいんじゃない? |
高橋: |
ほら! |
伊藤: |
うん。 |
鈴木: |
私は仕事しながらのほうが書けると思います。 |
高橋: |
あ~、そうか、偉い。いやでもね、この人は無理だと思う。 |
鈴木: |
そうかな~? |
伊藤: |
でもず~っとイライライライラして、一緒に暮らしてるよりは、まだ若いから。あっ、若くない! |
礒野: |
50代ですね。 |
伊藤: |
20代後半に会ってるんだ。 |
高橋: |
そうそう。いま50代だもん。 |
伊藤: |
なるほどね。 |
鈴木: |
じゃあ、かなり一緒に。 |
高橋: |
そうそう。もうだから無理だよね~。 |
礒野: |
ということで、「離婚して、出て行ったらどうか」っていうのが今のところ多数になっておりますが…。 |
高橋: |
ちょっと試してみてください。 |
礒野: |
残り15秒ほどになりました。伊藤比呂美さん、鈴木涼美さん、ありがとうございました~! |
伊藤: |
ありがとうございました。 |
鈴木: |
ありがとうございます~。 |
高橋: |
ありがとうございました! |
【放送】
2023/01/27 高橋源一郎の飛ぶ教室 「きょうのセンセイ」
放送を聴く
23/02/03まで