【出演者】
松村邦洋さん
堀口茉純さん
川久保秀一さん
2022年12月11日(日)放送の<DJ日本史>、テーマは『歴史を変えた、異人との出会い』。今ほど海外への行き来が簡単ではなかった、その昔。ひょんなきっかけで海の向こうからやってきた異人と出会ったことがその日本人の人生を変え、さらには国の歴史に大きな影響を与えたことがありました。文化も考え方も異なる異人との出会いがもたらしたものとは?
江戸時代半ば、鎖国下の日本人のものの見方、考え方に大きな衝撃をもたらすことになった一つの出会いがありました。
ご紹介するのは、6代将軍の徳川家宣を補佐して幕府の政治を動かした儒学者・新井白石(あらいはくせき)の話です。
新井白石は1709年、一人のイタリア人と出会います。名前はシドッチと言い、日本にキリスト教を広めようと海を渡ってきた宣教師でした。
しかし当時の日本はキリスト教が禁じられていたのですぐ捕らえられて江戸に送られ、尋問を受けることになります。その尋問を行ったのが、新井白石でした。
新井白石という人物はとても好奇心の強い第一級の知識人。一方イタリア人のシドッチの方もまた、貴族出身で非常に高い教養を身に着けた頭のよい人物でした。
つまり、鎖国真っただ中の江戸時代に、日本を代表する知識人とヨーロッパのすぐれた教養人がじかに向き合って話し合う、という奇跡が実現したのです。
そしてこの二人の出会いは、その後の日本人のものの見方、考え方に大きな影響を与えることになっていきました。
新井白石のシドッチへの尋問は、2週間で計4回、行われました。
尋問では地図を広げて、世界の最新事情を聞いていきます。
世界のどの場所にどんな国があるか?
そこの人々はどんな暮らしぶりか?
政治はどのように行っているか?
国と国の関係はどうか?
こうして聞き取ったことを、新井白石は書物にまとめます。
名付けて「西洋紀聞(せいようきぶん)」、西洋についての聞き書き、という意味ですね。
この書物はやがて日本人に西洋への関心を呼び起こすのですが、この中には新井白石の印象に強く残ったことが記されています。
それはシドッチが、科学的な考え方をして行動していること。
「西洋紀聞」には、こんなエピソードが記されています。
1回目の尋問のときのこと。
尋問を始めてずいぶん時間が経ち、日も傾いてきました。新井白石はそばにいた奉行に、今の時刻を尋ねます。
奉行曰く「この辺りは、時を告げる鐘がないのでわかりませぬ」
するとシドッチ、天を仰いで太陽の位置を確かめるや、地面に落ちた自分の影の長さを確認。そこから計算して今の時刻をさっと割り出しました。
これには白石、とてもびっくり!
もちろん新井白石、シドッチと会う以前から西洋について記した書物は読んではいました。
ただ、実際に一人の西洋人と向き合って受けた衝撃は大きなもの。
その科学的なものの見方、合理的な姿勢には、とても驚いたのでした。