【出演者】
松村邦洋さん
堀口茉純さん
川久保秀一さん


2023年8月20日(日)放送の<DJ日本史>、テーマは『先祖のプレッシャーは、きつかった』。歴史に名を残すようなエライご先祖を持つと子孫は大変。その栄光が重~くのしかかり、行いや生き方が強く縛られることだってありました。今回取り上げたのは、ご先祖のプレッシャーと格闘し続けた人々。生まれもって背負わされた期待と重圧に、後の世代はどう向き合ったのでしょうか?

先祖の汚名をそそぐため、びっくりすることをやった大名がいます。幕末期の大名、田沼意尊(たぬまおきたか)、あの田沼意次のひ孫にあたる人物です。

先祖の田沼意次は、将軍にかわいがられて異例の大出世をした人でした。
もともと幕府の経済基盤は農業でしたが、農業だけでなく当時発展してきた商業の力も生かして政治を行いました。そんな大改革を手掛けた田沼意次、わずか600石の旗本から5万7000石、静岡の相良(さがら)藩の大名へ大出世。
しかし後ろ盾だった10代将軍徳川家治(とくがわいえはる)が亡くなると失脚し、領地もどーんと減らされて、田沼家は福島の下村藩1万石に国替えさせられてしまいます。

この屈辱が、田沼家を継いだ子孫に重くのしかかっていきます。
田沼家が受けたトラウマはやがて、意次のひ孫、意尊の時代に一波乱巻き起こすことになったのでした。


子孫が願ったのはただただ、「田沼家の名誉回復」。ご先祖田沼意次の思いを代々受け継ぎ、チャンスをうかがいます。毎年正月には意次の遺書を読み上げ、一族でその思いを胸に刻むのですが、そこにはこんな一節がありました。
「受けたお役目はどんな小さなことでも心を砕き、念を入れて行え」
実際、意次の子孫たちはなみなみならぬ熱心さで職務に取り組み、領地も少しずつ回復していきます。

そんなときのこと。意次のひ孫、田沼意尊の代に絶好のチャンスが訪れました。
1864年、天狗党(てんぐとう)の乱が起きたのですが、田沼意尊はこの乱を鎮圧する追討軍の指揮者に任命されたのです。意尊、大いに張り切りました。
ところがその意気込みが、とんでもない悲劇を招いてしまうのです。

乱を起こした天狗党は尊王攘夷(そんのうじょうい)を訴える過激集団ではありましたが、そのメンバーはもともと徳川御三家の一つ水戸藩の藩士だった者。中には、広くその名を知られた武士もいました。
そのため、彼らを捕らえた加賀藩では天狗党の面々を丁重にもてなします。風呂に入れ、酒も出しました。

ところが、大張り切りの田沼意尊の方は、情け容赦ありません。
天狗党の身柄を加賀藩から引きとるや、彼らを収容したのはなんと、肥料にする魚のニシンを保管する土蔵でした。
中は猛烈な悪臭。その中に、50人ずつまとめて閉じ込めます。
用を足すのは、蔵の真ん中に置かれたおけのみ。真冬にもかかわらず、ふとんも与えません。一人一人に足かせまでつけました。
そして最後は一気に、なんと、352名を斬首。

こうした苛酷な処分は、尊王攘夷派の怒りに火をつけてしまいました。幕府への反感は高まるばかり。
田沼家の名誉挽回をかけた過剰なまでのいちずさが、思いも寄らぬ結果を生んでしまったのでした。

DJ日本史「先祖のプレッシャーは、きつかった」①

DJ日本史「先祖のプレッシャーは、きつかった」③