【出演者】
松村邦洋さん
堀口茉純さん
川久保秀一さん
2023年7月30日(日)放送の<DJ日本史>、テーマは「厳しいこともズバッと直言 その心得は?」。人の目を気にして口をつぐむ、周りの空気を読んで思ったことを言えない、なんてこと、ありますよね。しかし歴史上には、言いづらい状況でもズバッと発言、どんなに立場が上の人にもためわらず直言した人物がいます。彼らはなぜ、恐れずにものを言うことができたのか? 平素から心がけていたこととは?
最高権力者の将軍に対して、ズバッと直言した人物がいました。江戸時代の終わりに勘定奉行、今でいう財務大臣や、外国奉行を務めた幕府の役人、川路聖謨(かわじ・としあきら)です。
川路はもともとは下級の御家人でしたが、優秀さが認められて出世しました。そんな彼の信条は、ものをはっきり言うこと。
例えば小普請奉行に就任したとき「しきたりや上役の指示には従うこと」という誓約書にサインを求められたんですが、これでは職責が果たせないとサインを拒否しています。
こんなことを言ったら周囲から「貧乏御家人からの成り上がり者が何を言う!」と疎まれがち。普通なら尻込みしてしまいそうですが、川路聖謨の口癖はこうでした。
「首や左遷を恐れて黙るのは、戦で命を惜しむのと同じことだ」
ではなぜ川路聖謨は、周りの目を恐れず強気に発言できたのか?
実は川路聖謨、ふだんから胸に強く刻んだ心得があったのでした。
一介の御家人から成り上がったため、人から軽く見られることもあった川路聖謨。
しかしそれでは、思ったことが言えません。
そこで川路は、誰もが一目置く人物になるよう自己演出を心がけます。
そのための心得は、全部で15か条。
例えばその内容は、日頃の態度やふるまいについて。
一、自分は字が汚いので、読めるように書く。
一、自分はせっかちな性格なので、動作はゆったりさせる。城で歩くときもゆっくり歩く。
また、口の利き方については、こんな心得を定めます。
一、人の悪い点は言わない。
一、何のためにもならないことは、言わない。
一、発言する前に、そのことを本当に行うべきか、以前にやったことがないか、わかった上で発言する。
そして、おもしろいものでは、こんな心得もあります。
一、ふざけておならなど、してはならない。
実は川路聖謨は体質のためか、おならが出てしまうことがよくありました。
そのため、奈良奉行だったときにつけられたあだ名が「おなら奉行」。
こんな口さがない庶民の視線も意識し、何を言っても一目置かれる侍であろうと、川路は身を引き締めたわけですね。