【出演者】
佐藤さん:佐藤翔輔さん(東北大学災害科学国際研究所・准教授)
柴田アナ:柴田拓(ひらく)アナウンサー


移動自粛が招いた地元を知る機会を生かす

柴田アナ: 災害の伝承・継承について研究されている、東北大学災害科学国際研究所准教授、佐藤翔輔さんといっしょに、新型コロナウイルスの影響が続く中、震災の記憶を伝えるために、伝承活動を続ける人の声に耳を傾けています。

最後にご紹介するのは、岩手県・大槌町で、震災の伝承活動に取り組む「一般社団法人おらが大槌夢広場」代表の神谷未生さん(45)です。「おらが大槌夢広場」は、2011年11月に、津波の被害が大きかった大槌町の町づくりをしようと、町民有志が立ち上げた団体です。
愛知県出身の神谷さんは、震災後、NGO職員として大槌町を訪ねたことがきっかけで、2012年に大槌町に移住、2017年より「おらが大槌夢広場」の代表になりました。新型コロナ感染症の影響で、大槌町を訪れる観光客が減少する中、9月から新たな動きが出ていると言います。

神谷さん: もともと私たちの団体は、修学旅行、東京からの修学旅行生の受け入れにすごく強かったので、そういう意味では東京からの修学旅行はほぼほぼゼロになっているので、そこが戻ったとは言い切れないのですが、東北圏内の学校さんっていうのが、今、東北圏内しか行っちゃいけないということになっているので、ふだんは来なかったような学校さんとかが来ているような感じです。例年ほどにはいかないのですが、そもそもこの流れが始まったのが9月に入ってからなので、なんとか数は増えつつあるかな、という感じです。
逆にこのコロナ禍で、岩手県の学校さんもそうですけど、東北、近場の学校さんに三陸沿岸のことを知ってもらう機会ができたなというふうに私たちは捉えています。

柴田アナ: これまで訪れることの少なかった東北地方の学生に、三陸沿岸のことを話す機会ができたと語る神谷さん。一方で、実際の現場で語り部を続けることについて、難しい部分もあると言います。

神谷さん: 緊急事態宣言が解除されてすぐ、予約を入れた関東圏の方もいらっしゃったんですが、それはそれで団体としては当然うれしいんですが、語り部さんのひとりは「関東圏の方の語り部はしたくない」と辞退されて。高齢の方なのでその気持ちも分からなくもないなと思ったり。
あと、その方々が「車で来る」っておっしゃってて、そのときに他県ナンバーバッシングっていうのも問題になっていたので、「本当に安全に気持ちよく町の中を案内できるのかな……」というのと、自分の団体に対する「なんでこんな時期に人を呼び込むことをしてるんだ?」という非難、実際は出てないんですが出るのかもしれないなっていう心配は頭をよぎりました。いらぬ気遣いっていうのは、いろいろありますね。
「行っていいか?」という電話もあるので、それは「ダメです」とは言えないですし、来ると決めた方には、当然ちゃんと「対応します」と。行っていいかどうかはご本人さまで決めていただかないと、っていうところはすごくあるので、困るなって、思います。

柴田アナ: 新型コロナの影響で、これまで来ることのなかった人に伝えられる場が増えたという話の一方で、移動を自粛しなければならないという社会全体の雰囲気の中で、現場でツアーを組むことについて葛藤があるという神谷さんのお話でした。佐藤さん、どのように聞きましたか。
佐藤さん: 実は東北の震災伝承活動の課題は、コロナ禍の前というのは、地元の方や地元の学校に利用されにくいという状況があったんです。震災の発災からまもないということで心の問題もありましたし、学校さんですと修学旅行はどうしても遠出するのがトレンドになりますので、いたしかたない部分もあったわけです。
8年、9年と時間がたって心の問題もある程度は安定してきたことと、コロナ禍で遠くに行けない状況とも相まって、知ってほしい地元の方、地域の子どもに伝える活動が徐々に増えてきたというのは、とてもすばらしいことかなと思います。
大槌の神谷さんもそうですけれども、同じように地元の方、地域の学校にたくさん来ていただいている状況がここ最近増えていると伺っています。特に神谷さんがいらっしゃった岩手は、当初は感染者さんが非常に少なかったということで、県外からの来訪者さんに関しまして拒否反応が顕著だったのではないかなと思います。
柴田アナ: 確かに岩手は感染者数、非常に少なかったですね。
佐藤さん: そうですね。ただ9月に入ってからは全国から来訪される方が徐々に回復し始めまして、地元の方もだんだんと特別な抵抗感がなくなってきたように、私からは見受けられます。施設のほうでも非接触型の検温をされたり、消毒液による手指消毒をしたり、入れる人数を制限されるなどして、感染拡大防止対策をきちんとしていただいているということで、どのような施設でもこのような状況が定着しているというふうに言えるかなと思います。

見過ごせない被災地内での風化

柴田アナ: 神谷さんは、東北圏内の修学旅行生の訪問が増えたことについて、ある思いがあります。それは、被災地だからこそ、震災について語らなくなってしまっている現状についての思いです。

神谷さん: 町内での風化が思ったよりもかなり早いなというのがあります。もう、小学校4年生までが震災を知らないという、信じられない状況になってきているので、伝承って外向けが多かったんですが、「町内で一番受け継がれていないんじゃないの?」ってことを、このごろ感じる場面が多いので、「親世代はみんな被災しているんだから、家庭内で伝承がおこなわれるでしょ」というのは、たぶんちょっと、いろんな心の傷を受けた方もいる状況を考えれば、難しいのかな。一概に、絶対に「やれる」とは言えない。
今、いろいろやってきて感じるのは、伝承って、「経験すれば絶対伝わるよね」っていうのとは、ある程度またちょっと別な意識、事業としてきちんと続けていく意識がないと続いていかないので、誰かが意識して「伝承」というものをしていく大切さを感じます。本来であれば町がやるべき仕事なのかもしれないんですが、大槌の場合、そこもできていないので、だったら私たちの団体が、基盤がある上でこれをやれているのであれば、続けていこうかなというところですね。
東北って、ものすごい乱暴な言い方をすれば、どこもかしこも田舎なので、いわゆる修学旅行って、東京だったり関西なり、都会に行くパターンがすごく多かったんです。なんですが、そうじゃなくて、実は自らのほんとに近い足元、東北管内に、こういう学べる場があるんだっていうことに気づいてもらうきっかけにもなったかなと思っています。

柴田アナ: 「町内での風化が思ったよりもかなり早い」というお話に、私、驚いたのですが、佐藤さんは、そのように実感されることはありますか。
佐藤さん: はい。実は私が地元の新聞社さんと別な調査を実施したときですけれども、「地域の子どもに震災のことがきちんと伝わっていないなと不安に感じている」というふうに答えてくださった団体・個人が、半数以上いたんです。別な調査では、関西から東北に中学生を招いて、東北にいる中学生とそれぞれ10名ずつ意見交換してもらうワークショップをやったときに、「東日本大震災について、知っていることを書いてください」と、どんどん壁に書き出してもらったんです。震災から5~6年後だったんですが、東北の中学生よりも関西の中学生のほうが東日本大震災について知っていることが多かったんです。
東北の子どもというのはかなり思っている以上に、震災のことを知らない状況が続いています。と言いますのも、やはり心の問題もありまして、災害の直接的な映像や事実を、なかなか見せることができない防災教育、授業というのが続いていたんです。
ただ8年、9年とたつにつれて徐々に変わり始めていて、中には、中学生世代の人が自らの震災の体験を語ったり、地域で被災された方の聞き取りを行うような学習も始まりまして、コロナ禍での地域学習として、施設訪問も加速してきたという状況になっております。
柴田アナ: それぞれの場所で新しい動きが始まっていましたが、佐藤さんはどのように聞きましたか。
佐藤さん: 今回、オンライン語り部が各所で展開され始めていますけれども、いろんないいことがあったわけです。そういった意味で、これはコロナ禍だからというわけではなく、通常サービスにしていただくということが重要かなと思います。気軽にオンライン語り部にアクセスしてもらって、そして現地に行っていただく。やっぱり、現地でしか分からないこともたくさんあるわけです。そういった意味で、現地で語り部を聞いてもらうということが必須かなと思います。
対面に勝るものはないですね。震災の語り部に限らず、スポーツを直接観戦するのとテレビで見るのとが全然違うのと同じかなと思います。

あとは、災害の体験、震災の体験というのは、1つではないわけです。いろんな立場、いろんな状況での体験があります。それについて話をすること、話を聞くこと自体が、災害の状況のイメージトレーニングになっているわけです。なるべくたくさんの体験を聞いてもらうことで、災害が起きたときの応用力が自然と身に付きます。
オンライン語り部を通して被災地を知ってもらった上で、さらにそこから深く知りたい場所について調べてもらって、東北に来てもらいたいなと思います。東北にはおいしいものもありますし、魅力的な風景もありますので、ぜひ落ち着いた折には現地に来ていただいて、語り部さんの話、いろんな施設の見学をしてもらいたいと思います。
柴田アナ: コロナ禍で思わぬ形で、震災の伝承として全国から東北に訪ねるということが一時的にストップしてしまったわけですが、逆にこのオンライン語り部などをきっかけにして、東北を訪ねるということにつながっていけば、コロナ禍をプラスに変えていけるということにもなりそうですね。
佐藤さん: はい。ステイホーム、自粛でおうちにいるようなことが多い状況でありましたら、ぜひ、ホームページ等を通して東北のことを調べていただいて、「今度こういうところ、行こうかな」というふうに調べていただいたり計画していただいたりすると大変ありがたいです。
柴田アナ: 「NHK東日本大震災音声アーカイブス あれから、そして未来へ」。きょうは、東北大学災害科学国際研究所准教授、佐藤翔輔さんと一緒に、震災の記憶を伝え続ける人の声に耳を傾けました。

柴田アナ: NHKでは、被災地で取材した方々の映像や音声をご紹介するホームページ「NHK東日本大震災アーカイブス」で、あのとき、今、これからの被災地を、記録し続けています。「あのとき、何が起こり、人々はどう行動したのか」。そして「復興支援と明日の防災のために何ができるか」をともに考えていくサイトです。今日ご紹介した方々の声も、随時このホームページに掲載する予定です。ぜひ、お聞きください。

<NHK東日本大震災アーカイブスのHPはこちら>


<コロナ禍の震災伝承(前編)>