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【8月20日放送】ジャーナル特集「音のない世界を体験」

荒木美和

投稿日時:8月24日 (金) 午後 7時20分

「NHKジャーナル」の荒木美和です。
この夏限定で、新宿で開催されている「ダイアログ・イン・サイレンス」という施設を取材しました。
聴覚障害者の方々が「音の無い世界」を案内してくれるという内容です。
今回、取材にご協力いただいた聴覚障害者の皆さんはラジオ番組をお聞きいただけないので、テキストにして改めて内容をご紹介したいと思います。
http://www.nhk.or.jp/r1/journal/player/180820-3.html

宮崎浩輔キャスター:続いてはジャーナル特集です。

菅野真美恵キャスター:取材をしたのはラジオセンターの荒木美和アナウンサーです。

荒木美和アナウンサー:こんばんは。

菅野真美恵キャスター:音の無い世界を経験したんですよね?

荒木美和アナウンサー:はい。この夏、東京都内で聴覚障害者の人たちが感じている「聞こえない世界」を体験してもらおうというエンターテイメント施設が開催されています。現場で取材してきました。

(集合して注意事項などを伝えるスタッフの声とお客さんたちのやり取り)

荒木美和アナウンサー:施設の名前は「ダイアログ・イン・サイレンス」音の無い世界での対話という意味です。
皆さん最初の部屋で、音を遮断する効果のあるヘッドフォンを渡されて、装着します。
その後、案内役の聴覚障害者が、手話ではなく、わかりやすい身振り手振りと、壁のイラストも使って施設の中での注意事項などを伝えます。

耳の聞こえないスタッフに引き連れられて、最初、おっかなびっくりしながら音の無い世界を体験していた参加者8人。

次の部屋に移動するとそこは薄暗い小部屋でした。
中央には大きな丸テーブルが置かれて、ライトで照らし出されています。
壁には「手のダンス」と書かれていて、促されるように参加者はテーブルをぐるっとみんなで囲みます。
手をテーブルの上にかざして、手の影を使って、丸や四角、ハートといった図形を作って遊びます。
最後に全員で協力して手と手を合わせて大きな太陽を作るんです。

(足音)

荒木美和アナウンサー:続いて、隣の部屋に移動しました。
部屋を移動しながら様々なゲームを一緒にこなしていくうちに、お互いに身振り手振り、アイコンタクトで意思の疎通が出来るようになってきます。
しまいには二つのグループに分かれて、なんと、対抗戦のクイズが出来るまでになりました。
この体験プログラムはドイツが発祥で、世界7ヶ国で開催され、東京では今年で2回目です。
音の無い世界の案内役である聴覚に障害のあるスタッフは8月のおよそ1ヶ月間のために、なんと4ヶ月前からトレーニングを行ってきました。

(研修施設での荒木アナリポート)
「研修施設に来ています。ここでは聴覚障害者の皆さん24人と、手話通訳者の皆さん9人が、お客さんを迎える訓練を受けています。現在はお客さんを案内する想定で、3つのグループに分かれてロールプレーを行っています。私の今、目の前では、一番最初の部屋でお客さんに注意点を、『手話を使わずに』伝える方法を学んでいます」

荒木美和アナウンサー:講師を務めるのは3年前に両耳が聞こえなくなった西嶋恵理子(にしじま・えりこ)さんです。

(西嶋さんが研修の講師をする音)
「私たちにとって大切なのは、一人ひとりのお客様のニーズを感じる…」

荒木美和アナウンサー:西嶋さんは大手航空会社の国際線のキャビンアテンダントを20年以上勤め、接客やおもてなしを教える講師として活躍してきました。
しかし、病気ですべての音が聞こえなくなりました。
西嶋さんは、音の無い世界でどうやって生きていけばいいのか、深い海の底に沈んでいくような気持ちだったと言います。

荒木美和アナウンサー:そんな時、この「ダイアログ・イン・サイレンス」と出会って世界が開けたと言います。

(西嶋さんインタビュー)
「聞こえなくなって、自分の人生の可能性、道がふさがったような気持ちなって、何かに挑戦しないと先に進まない、これまでやったことの無い事に挑戦したいという気持ちが芽生えたときに、すがるような、じゃあこれ、と。それがきっかけでしたね」

荒木美和アナウンサー:自分自身を変えたくてアテンドに参加した人もいます。中川恵美(なかがわ・えみ)さんです。
家族は全員両耳が聞こえず、高校までは聾学校に通っていた中川さん。
現在は4年制の大学で健常者とともに学んでいます。
手話通訳者を通した中川さんのインタビューです。

(中川さんインタビュー)
「元々人前に立つのがすごく苦手だったんですね。本当に普通の聞こえる人たちとのかかわりが無いので、自分を変えたいなと思って応募しました」

荒木美和アナウンサー:大学では手話を通じて講義を受けている中川さんですが、ゼミなど、少人数の健常者とのコミュニケーションに悩んでいました。

(中川さんインタビュー)
「私たち障害者は、やはり皆さんに理解して欲しいという思いはあるけれどもなかなか出て行けない。当事者になれる場、それがダイアログだと思っています。ここで体験をして、是非経験や感じた事を日常生活に生かして欲しいって思っています」

荒木美和アナウンサー:中川さんはこの日、初めてお客さんを案内する仕事を任されました。中川さんに心境の変化を聞きました。

(中川さんインタビュー)
「アテンドのデモンストレーションを通して、気持ちを通じさせるということがすごく自分の中で芽生えてきたかなって。以前よりスマートフォンなどに頼らないで目を合わせてやってみようという気持ちが私の中にはわいています」


荒木美和アナウンサー:体験に来た人たちは、単にエンターテインメント施設として来ている人もいれば、聴覚障害に関心の高い人たちもいました。
自分自身も、数年前から片方の耳が聞こえなくなったという男性です。

(体験に来た男性)
「音がなくなるって言う恐怖みたいなのがあったんですが、今日、音の無い世界を体験してみてちょっと怖くなくなったというか、音が無くてもコミュニケーションが取れるんだなという事がわかって、すごく楽しかったです」

荒木美和アナウンサー:聴覚障害者の長女の気持ちを知りたくて来たという母親も。

(体験に来た女性)
「聞こえないって言うのはどういうことだろうと、ずっと思っていて、あ、こういう環境でいつもいるんだなと思った時に、すごく視界が広い事と、相手の顔を見ている事の意味をやっと体感できた気がしました」

荒木美和アナウンサー:3年前に耳が聞こえなくなった西嶋さんはこのイベントに出会って、救われたと言います。

(西嶋さんインタビュー)
「以前は聞こえる世界でもちょっと何とかできないかと思っていたけれど、聞こえない世界で自分が自信を持ってそこにいる。そういう場所が作れるという確信が出来たというのは、今の現実を受け入れる覚悟は出来たかなと思います」

荒木美和アナウンサー:このプロジェクトを運営する団体の代表、志村真介(しむら・しんすけ)さんは、障害者自身の考え方を変えるきっかけにもなっているといいます。

(志村さんインタビュー)
「耳の聞こえている人、聞こえていない人と同じレベルの情報を保障してくれという強い主張があるんですが。このサイレンスをやっていくと、権利とかを主張するのではなくて、自分たちがその情報を取りに行くっていう、そういう、自ら動き始めるこういうスタンスに変わってきているんですね」

荒木美和アナウンサー:聴覚障害者と健常者、お互いがお互いを理解して高めあえる場を目指している、この「ダイアログ・イン・サイレンス」。今月26日まで新宿のルミネ ゼロで開催さています。

菅野真美恵キャスター:ラジオセンターの荒木美和アナウンサーでした。

番組情報
NHKジャーナル番組HP
平日 午後10時00分~11時10分 生放送
キャスター:宮崎浩輔、菅野真美恵
ニュースデスク : 岩本裕