世界最高峰のオーケストラ、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団。バイオリニスト・樫本大進(38)は、そのスター軍団の頂点に立つ“コンサートマスター”(通称コンマス)を8年にわたって務めている。
時には100人以上でハーモニーを奏でるオーケストラの世界において、一糸乱れぬ演奏を生み出すのには、指揮者では示しきれない実に繊細な間合いやタイミングを陰から統率するコンマスの存在が不可欠となる。樫本は本番中、誰よりも体を動かして演奏する。曲の転調で体を沈ませたり、指の動きを後方の団員に見せてこれから弾く音の音色や伸びのニュアンスを伝えるなど、さまざまなサインを送り続けているのだ。
だが、樫本が演奏中、最も大切にしているのは、「誰よりも楽しむ」ということ。率先して楽しむ姿は、団員に伝染し、やがて舞台の雰囲気を変え、客を魅了する特別なハーモニーを生み出すと信じている。
「“音楽”という漢字はいいなって思うんですよね。“音を楽しむ”って。自分が楽しまないと、お客さんも楽しめない。“音楽”というのは全てが素直に正直に音に出ると思う」。