東京・日比谷の雑居ビルの地下にあるフランス料理店。外の光やBGMが一切ない地下空間。そこで客は料理と酒に集中する。
創業34年。政財界をはじめ、あらゆる食通や名だたる料理人たちをうならせてきたのは、料理の味だけではない。「超一流」のサービスがある。その中心となるのが、ソムリエ・情野博之(52)。業界では重鎮と称される人物だ。
およそ700種類3,000本用意されている店のワイン、そのすべての特徴を把握し、料理との相性、客の好み、しゃべり方やしぐさ、数少ない情報を元にその人にあったワインを瞬時に選び出す。軽妙しゃだつなトークで、最高のひとときを演出する。そこには、情野が考えるソムリエ像がある。
【ただ、黒子に徹する】
幸福な時間を過ごすためにやってきている客。せっかくのムードを台なしにしないよう、細心の注意を払いながらサービスに徹する情野。周到なワイン選びはもちろん、グラス1つ皿1枚のわずかな汚れも見逃さない。そういう細かいところを全部クリアしてこそ、すばらしいひとときを提供できると考えている。
「ソムリエっていう仕事は液体注いでいるだけの仕事じゃないか、というのはありますけど。ソムリエの理想は出過ぎず、引っ込みすぎずというところで、あくまで黒子であるべきですよね。お客さんに満足してもらうっていうのが僕らのプライド。それがソムリエのだいご味なのかなというところはありますよね」