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第326回 2017年5月29日

猫を知れば、世界が変わる 動物写真家・岩合光昭



ネコに、叱られない

動物写真家、岩合光昭の朝は早い。ネコが活動を始める日の出前が撮影の基本。
取材の初日となった2月、京都の神社には、早朝6時半にやってきていた。
境内には14匹のネコは住み着いており、会うと、名前を呼んで挨拶を交わす。
1年前からこの神社に通い続けており、すでに気心を知る仲間のようだった。
まるで人に話しかけるように1匹1匹に優しく声をかけていった。
岩合には、撮影の際に大事にする“流儀”がある。それが「ネコに、叱られないこと」相手の気分を損ねると、撮影は台なしになる。それがネコだからと侮ってはいけない。
目線を高くして話しかけると、ネコにも伝わる。
同じ目線でネコに優しく話しかけることを心がけていた。

写真1年かけて通ってきた京都の神社での撮影
写真岩合は、猫と同じ目線を心がける


相手と“共振”する

イタリア北西部にある、風光明媚(めいび)な世界遺産の町、チンクエ テッレでネコの撮影をおこなった岩合。BSプレミアムで放送される「岩合光昭の世界ネコ歩き」、その現場に同行をした。
狙っていたのは、“ドン”というオス猫。行動範囲が広く、町のあちこちを動き回る。ドンを撮影することで、さまざまな町の表情も映し出せると考えたのだ。
だが、ドンはなかなか岩合を近寄らせない。警戒心が強く、さすがの岩合でも距離を詰められずにいた。
そうして迎えた、撮影3日目。岩合から「ドンと一人で向き合いたい」と要望され、スタッフは距離を置くことになった。
その3時間後、岩合は、ドンと一緒に、眠っていた。
ドンは岩合と心を打ち解けたかのように、穏やかな表情を見せていた。
岩合によれば、ドンと時間を共有することで、ある感覚が湧き起こるという。岩合なりの表現で言うと、「相手と“共振”する」。
ネコと心持ちが合ってくると、ともに揺れている「共振」の感覚になり、考えや、次の動作までわかってくる。その状態に持ち込めると、最高の一枚が生まれるという。

写真ドン以外のネコとはすぐに距離を縮めた
写真“共振”をしたドンと、距離を詰める


岩合が教える なるほど!簡単!撮影術

10月からの連続テレビ小説「わろてんか」のヒロインを演じる葵わかな(18)が、ネコ好き代表として岩合の撮影術に迫った!
猫の丸みのあるフォルムをきれいに撮るコツは、「太陽の光をうまく使うこと。特に重要なのが、斜光を生かすことで立体的に見える」。
また、猫に近づくには、猫がこちらを向いていないときに、ゆっくりと、静かに近づくことがオススメ。そして、猫は下から撮ってあげると、顔が丸く写り、愛くるしい表情を撮りやすい。そのほかにも、猫のおもしろい動きを撮るには、しぐさで予想をしたり、その猫のチャームポイントを強調することがよいという。

写真葵わかなさん。愛猫「チャロ」の写真を岩合に見てもらった
写真岩合が、撮影のコツを自身の写真を使って披露


ネコは、“希望”

ユーゴスラビア紛争の激戦地となったボスニア・ヘルツェゴビナ。世界120か国を巡ってきた岩合だが、初めての国だ。
内戦の悲劇を乗り越えたこの場所を、どう映し出すか、新たな挑戦だった。

撮影を始めて2日目、岩合が朝ごはんのチョコクロワッサンを食べていると、突然、こんな話を切り出した。
「ボスニアではファンタジーを描きたい。内戦の傷ではなく、穏やかなおとぎの国の世界として」
内戦を乗り越えたボスニア、ネコたちの姿をとおして、現実の奥にある、おとぎ話のような“希望”を描きたいと考えた。

だが、挑戦は難航した。ロケの下見では、仲むつまじく遊んでいた、牧場のネコと犬が、撮影本番では、全く遊ばないのだ。再トライをするも、天候が崩れ、残りの時間は少ない。
その時岩合が目の当たりにしたのは、ネコと戯れる、おとなしい性格の別の犬。根気よく岩合が見守る中、ネコが犬に乗って“フミフミ”するという、子猫が親に甘える愛情表現のしぐさを行う。岩合の想像を超える、「奇跡」のような、穏やかなカットが生まれた。ネコを40年撮り続けてきた岩合でも、初めてという、こん身の“希望”の映像だった。

写真内戦の被害を残したボスニアの町
写真ネコがほかの動物たちと遊ぶ“おとぎの国”をねらう


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自然との一体感を覚えることができる人がプロフェッショナルだと思います。人間が自然の一部だという、感じるということですね。それが一体感を感じるということにつながると思いますね。それができると何か仕事がやったことにつながるんじゃないかなと思いますね

動物写真家・岩合光昭