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第320回 2017年4月10日放送

遠くを見ない、目の前を生きる 噺家(はなしか)・春風亭一之輔



今の自分を写す

江戸時代以来と言われる平成“落語ブーム”をけん引する、春風亭一之輔(39)。
人間国宝・柳家小三治が「久々の本物」だと称賛し、21人抜きで真打ちに大抜てきした。
その真骨頂は、古典落語を守りながらも、現代的なギャグをいれるなど自分の言葉で大胆にアレンジすること。さらに高座に上がる度にセリフを練り直し、絶えず進化させていく。
卓越した話芸を支えるのは、「今の自分を落語に写す」という一之輔の流儀。
たとえば十八番の噺(はなし)のひとつ「初天神」に出てくる子ども・金坊は、自らの次男がモデル。目つき、言い方、しぐさ、日常で垣間見せるさまざまな所作を投影している。またそのために、家族、学校の先生、テレビでみる芸能人、駅ですれ違う人など、あらゆる人を常に観察しているという。そこで感じたことを自分の中に取り込み古典落語としてはき出した時、現代的な表現となり今の時代にあった落語となっていく。

写真アメをなめる一之輔
写真芙貴子ちゃんを背負った一之輔


目の前だけを、見る

一之輔は、年間350日、およそ900席もの高座に立ち、落語界一多いとされる。
一席でも多くの高座にあがることが一之輔のこだわりだ。
大胆な落語で客を沸かせる一之輔だが、その素顔は正反対。客に受けないことを何より恐れ、楽屋では人知れずぼやき、迷い、不安と闘い続けている。
身ひとつで高座にあがり、自らの話芸のみが頼りの「噺家(はなしか)」。芸を追求する道に終わりはない。場数を踏みどれだけ人気がでようと、一之輔は歩みをとめない。時に受けなければ、その場でもう一席別の古典落語をはなすこともある。
噺(はなし)をよりおもしろくするために、どんなに忙しくても時間を見つけては、歩きながらでも稽古する。根はひねくれ者だが、落語にだけはどこまでも真摯(しんし)に、貪欲に向き合い続ける。

「目の前ですね、一席一席だな。常連さんや初めて来るお客さんに笑ってもらう、その責任を果たすだけです。」
遠い将来よりも、目の前の一席に力の全てを注ぐと決め、今日も高座にあがる。

写真ソファに倒れ込む一之輔
写真歩きながらブツブツ稽古する一之輔


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

“涼しい顔をしながら、すごいことをやる人”かな。頑張ってんだぞとか言わなくても、お客さんには伝わってる、みたいなね。

噺家(はなしか)・春風亭一之輔