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第306回 2016年10月17日放送

人生に寄り添う一着を デザイナー・皆川明



自分の喜びに、従う

皆川の会社は、21年間で売り上げが下がったことは、一度もないという。
その人気を支える理由のひとつが、オリジナルデザインの生地から服を作ることにある。
皆川が描くデザインは、花や動物、幾何学模様などの素朴なモチーフ。古い絵本に出てきそうで懐かしくて楽しい。
流行やマーケティングはいっさい考えない。よりどころは、自分の喜びに従うことだけだ「周りの人に喜んでもらえると思って描けば描くほど、自分の思いは小さくなる。自分が喜んで描くものは、人も喜んでくれると信じて、精一杯やるしかない」
周りを喜ばせたいと思いすぎると作為が勝ちすぎる。
描いている自分自身が喜べなければ、いいデザインは生まれないと考えている。

写真写真形はシンプルだが、独特の柄が人気を集める
写真図案は必ず手書きで描く そのほうがデザインに気持ちが乗ると話す


マイナスから、プラスを見いだす

皆川のデザインは、日常にある普通のモチーフなのに、どこか不思議さがある。
その発想の秘密を、皆川は、「この世の中にマイナスしか持っていない事象はきっとないと思っていることが、デザインする上での根っこになっている」と話す。
例えば、人生に見立てた砂時計のデザインは、残り時間がなくなる切なさより、記憶や経験が増えるといったポジティブな一面をカラフルに楽しく表現した。
戦闘服などに使われる迷彩柄も、かわいい草花で表現。戦争ではなく、幸せのメッセージに転換した。
その発想は、服の売り方にも表れている。皆川は、新しい服を次々買ってもらいたいと思っていない。長く着てほころびた服は、お店に持ってきてもらえば必ず直す。中には、生地がすり切れると、あえて黄色くした裏地が見えてくるなど、長く着ることを楽しんでもらうための仕掛けが施されている服もある。
「マイナスから、プラスを見いだす」という発想の原点は、皆川が歩んできた人生そのものにある。19歳でファッションの世界を志し、服飾の専門学校に入学。しかし、不器用でうまく服が作れない落ちこぼれだった。それでも、服作りの道をあきらめず、縫製工場やアパレルメーカーで働き、技術を磨いた。そして、27歳で独立。服の形だけでは、他のデザイナーと比べて能力が落ちると考えていた皆川は、生地作りから自分で手がけることにした。流行やトレンドに乗らない素朴なデザインの皆川の服は、ファッション業界で注目を集め、人気になっていった。
「自分ができないことに出会った時に、できない状態でいるよりは自分にできることを相対的に見つけてみる。社会的にはマイナスに見えることが、自分にとってはプラスになることがあると考えてみる。そういうことを、ずっとしてきた」

写真写真落ちていく砂を人生に見立てた砂時計のデザイン
写真写真迷彩柄を草花で表現 幸せのメッセージに転換
写真時間を見つけて、お店にも立つ
写真独立した当時、魚市場で生活費を稼ぎながら、服を作り続けた


作為を、超えて

皆川はこの夏、これまでにない大きな花のデザインに挑んだ。頼りにしたのは、20年以上もつきあいのある刺しゅう工場の職人。大きな花に刺しゅうを重ねて立体的にすることで、インパクトをつけたいと考えていた。しかし、重ね縫いした部分に筋が出てしまうなど、なかなか思うようにうまくいかない。
そんなときに訪ねたのが、4年前から親交を続ける沖縄陶芸界の巨匠、大嶺實清さん。
大嶺さんのものづくりに触れた皆川。どんなに作り込んでも届かない、無為の美しさがあることに改めて気付かされる。「思う方向に向かいたいと思いながら、思っているうちはできそうもないジレンマがある。そういう意味では思っていないと、その瞬間もないと思うが、思っているうちはその瞬間ではないので、もやもやしているっていうことはある」

製作に取りかかって1か月後。皆川は重ねて縫う作り込み方をやめ、鉛筆で描いた図案をそのままシンプルに表現することにした。出来上がった服を見て、皆川は、満足げな顔を浮かべた。

写真写真この夏、これまでにない大きな花のデザインに挑戦
写真刺しゅう職人と二人三脚でデザインを具現化していく
写真写真試行錯誤の末、完成した大きな花のデザイン


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

使命と夢が、両方携えられていること。で、それは、自分の人生の持ち時間を超えるぐらいのことであるっていうことがとても大事で、それをする時には、もう諦めのスイッチは切ってしまうっていう。なんかそういうふうにしていくって事がプロだなと思ったんです。

デザイナー 皆川明