地方創生のトップランナーとして、全国から注目を集める町役場の職員、寺本。徹底した“グルメ戦略”の地域おこしを実践し、過疎の町はいま“食の町”として、全国からの観光客でにぎわう。徹底的に味にこだわった地産地消の高級イタリアン。一流シェフたちが地域の人に調理技術を指導する“食の学校”。さらに、寺本が企画した数々の事業に集まるのは、観光客だけではない。地方で“食”と向き合いたいと、全国から移住者も殺到する。
そんな寺本の町おこしの根底を支える信念が、“地域の誇りを育む”ことだ。「一番おいしいものは地方にあって、おいしいものを作る人間は地方にいる。だからこそ、地方の人間は輝いているという誇りをもって僕は生きている。」と語る。
町に生きることへの誇り、地域資源への誇り、その思いが無ければ地域おこしはなしえないと、寺本は考える。
5年前に、寺本が立ち上げた高級イタリアン。
ここでしか食べられない味が評判を呼ぶ。
客単価は4千円を越えるが、客足は途絶えない。
一流シェフが惜しみなく技術を伝授する「食の学校」
寺本が、高級イタリアンを立ち上げた際、多くの人が「どうせ、はやらない」と口をそろえた。しかし、今では町が誇る観光スポットに。前例のない事業を次々と成功させ、結果を出し続ける寺本。事業を軌道に乗せるその秘けつは、“スピード感”だ。
地元で果樹園を営む女性が、サクランボの販売戦略について寺本にヒントを求めた際にも、寺本は悩まない。悩む前に、動くのだ。すぐさま女性を連れて、現場を回り、解決策を探る。その一週間後には、遠く山形から名シェフを呼び寄せ、サクランボを使ったPRのための新メニューを完成させた。「事業の構想は、時間をかけて作るものではない。相手と常にキャッチボールしながら、出来るだけ早く結果を返すこと。そのやり取りを繰り返すことが、成功への道」という寺本。スピード感を持って仕事をし、関わる人たちの熱を冷まさないこと。それが寺本の町おこしの流儀だ。
「関わる人たちの熱を冷まさない」寺本の町おこしの流儀だ
相談を受けた1週間後に完成した、さくらんぼの甘みとトマトの酸味を生かしたパスタ
寺本のもとには、“食”や“地域おこし”に携わる仕事をしたいとたくさんの移住者がやってくる。そんな寺本が、移住者たちによく語りかける言葉に、「地域を見ろ」がある。町おこしは、自分本位ではあってはならない。必ず地域の人の声に耳を傾けること。そこに寺本の地域おこしの原点がある。
寺本が町おこしに携わるようになったのは、役場に入ってから10年目。“平成の大合併”で、生まれ故郷が“消滅”した。町の将来はどうなるのか?危機感を抱いた寺本は、町の経済を持続させようと当時はやっていたネット通販に挑んだ。しかし、オープンから4か月たっても成果はなく、さんたんたる結果。「今まで10年間、俺は役場で何をしていたのか。地域のことについて何も知らない、自分が恥ずかしい。」自分の実力の無さに、ぼう然となった。何の手だてもない寺本は、地域を周ることしかできなかった。しかし、そこで気付く。地域にはたくさんのアイデアやヒントが転がっていると。答えは、地域にある。寺本が公務員という仕事を全うする上で、大事にする流儀だ。
日中、寺本はほとんど役場にいない。
何か困りごとはないか、地域を周り、自分の目で確かめる。
多くの時間を、地域で過ごす。