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第296回 2016年5月30日放送

命の医療チーム、母子の伴走者 産婦人科医・荻田和秀



最悪に備えて 最善を尽くす

新しい家族の誕生である出産は、まさに幸せの象徴。しかし今、高齢出産の増加なども影響し、早産や病気を抱えた妊婦の出産など、いわゆる“ハイリスク出産”の割合は高まっている。中には、母子共に命の危機にさらされることもあるという。
その過酷な現場に25年もの間向き合ってきたのが産婦人科医の荻田和秀だ。これまで千件にも及ぶハイリスク出産を手がけ、母子の窮地を救ってきた。
その荻田が最も大切にするのは、日頃の徹底した準備だという。たとえば、救命センターとの合同訓練もその一つ。心肺停止の妊婦を蘇生しながら帝王切開をするという、産婦人科医にとって最も過酷な手術『死戦期帝王切開』のシミュレーションを頻繁に行っている。しかしこの手術は、日本ではまだ6件しか実施の報告がないほどまれな上、妊婦がひん死の状態のため助けられる可能性も低い。何度も訓練しても無駄になる可能性の方が高いが、荻田は決してこの準備を怠らない。
「最悪のケースどうなる、死ぬかもしれないって思いながら用意しておかないといけない。そのシミュレーションをしておかないといけない。ネガティブですよね。でもその中から最高の選択肢っていうのは生まれるんじゃないでしょうか。そこから我々の仕事って始まるんです。」
一見普通の出産も、いつ急変して命の瀬戸際になるかわからない-。これまで何度となくその瞬間に立たされてきた荻田だからこそ、日頃の準備の大切さを痛切に感じている。
そして一昨年、この積年の訓練の成果が発揮される場面を迎えた。心肺停止の妊婦が搬送され、『死戦期帝王切開』を実施。母と子、二つの命を救った。

写真日常的に救命救急センターとの訓練を行う
写真無事にお産が終わるかどうか常に心配してしまうため、待つのは苦手と話す荻田


突き放し、見守る

産婦人科の部長として、9名の医師をまとめ上げる荻田。若手医師たちへの指導にも熱が入る。新人でも容赦なく患者の主治医を任せ、自分で診断をつけ治療の道筋を立てることを求める。そして、そのまま放任するのではなく、診断の根拠と治療の方針について鋭く問いながら、指導し、適切な治療が行われているかを見守る。
妊娠や出産は、コントロールできない。そのため、荻田だけでなく、全ての医師が的確な診療を行えなければ母子の命を支えることはできないと考えている。

「責任は重いですよ。おまえが決めろって言われるとね。でもそういうもんじゃないですか。やっぱりそれはあの、後ろに僕がいるからええかげんになるっていうのが一番よくないわけで。ケツは拭くから、患者さんと向きあえっていうところじゃないですか。僕もそうやって育ててもらったし。」

自分の決断が、母子の命に大きく関わる産科医の仕事。その宿命を自覚し、責任をもって診療できる医師になってほしいという思いで、若手の育成に日々尽力している。

写真お産は母と子の命がけの闘い
写真悩む若手医師には、ひざを突き合わせて話しあう


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

いつでもどこでも誰とでも、どういう状況でも自分の納得できるパフォーマンスができるように、シミュレーションしたり勉強したり。そういう努力を惜しまない人がプロフェッショナルだと思います。

産婦人科医 荻田和秀