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これまでの放送

第284回 2016年1月18日放送

主婦のリアルが、ヒットを生む 雑誌編集長・今尾朝子



リアルの半歩先を見せる

出版不況の中、付録もつけずに売り上げを伸ばし、全女性ファッション誌ナンバー1にのし上がった雑誌「VERY」。この成功の立役者が編集長の今尾だ。企画の採択から原稿、写真選びに至るまですべての行程に関わり判断を下す。中でも腕の見せ所は、雑誌の目玉となる特集とタイトル。その善し悪しが雑誌の売れ行きを左右するという。
たとえば昨年一番のヒットとなったのは『スーパーマーケットで浮かない秋のオシャレ』という特集。ファッション誌で王道のよそいきの洋服ではなく、あえて“スーパーマーケット”という主婦にとって身近な場所でのオシャレに着目。すぐに真似できるファッションから少し背伸びした憧れの姿までを提案し、読者から大反響を得た。
今尾はこう語る。「単なる実用だったらつまらないじゃないですか。主婦の日常って基本ルーティンだし、毎日の同じ事を繰り返しているけど、その中に幸せな瞬間があったりっていうのをできるだけ我々はドラマティックにビジュアル化してお届けしたい」

読者である主婦にとって、リアルで役に立つ情報を紹介するだけでなく、その半歩先の“憧れ”をスパイスとして盛り込むことで、主婦の毎日を応援するというのが今尾の基本姿勢だ。

写真写真一枚一枚に目を通す今尾 写真コーディネートチェックも今尾の仕事


分かったつもりが、一番危ない

編集長として13名の編集者をまとめ上げる今尾。普段は物静かで穏やかなリーダーだが、編集者たちの読者と向き合う姿勢が生半可なものであると感じれば厳しく指導する。
それは、読者が今何を考え、何に興味を持ち、何を望んでいるのかを常に更新し続けなければ、雑誌はどんどんつまらなくなってしまうという確信があるからだという。

「分かっているつもりになることが一番危ないっていうか。読者の方は、毎日いろんな事に刺激を受けて進化されているので、(雑誌を)作っている人達が決めつけるのが一番危険。情報が更新されていないと自分からだすプランも必然的におもしろくない。」

この考えのもと、すべての企画において最も重きを置いているのが、読者調査と呼ぶ取材だ。アンケートや座談会など大勢を対象にしたものではなく、今尾をはじめ、編集部員達が街ですてきな女性を見つけては声をかけ、直接話を聞き込むというスタイル。こうすることで、表面的な言葉ではなく読者たちの本音をあぶり出し、誌面に落とし込むことができる。この地道な活動こそが他誌とは一線を画すリアルな誌面作りを可能にしていると言う。

写真ファッション展示会では
主婦に受けそうなトレンドをチェック

写真時間ができれば読者調査に費やす


私が答えじゃない

だから、新しい

雑誌作りのあらゆる局面で的確な判断を下し、毎月数百ページにも及ぶ雑誌を発行し続ける今尾。売り上げトップを背負う編集長として、雑誌のクオリティーを保つことは容易なことではない。しかし今尾は意外にも、誌面の写真選びやデザインについて最後は担当編集者達にその答えを決めさせるという。

「編集長とはいえ、私の考え一つで作ったら何もおもしろくないと思っていて。それぞれの編集者がしっかりとおもしろいと思うものを捕まえて、これが私の意見であるって言ってもらわないと判断できないし。その情熱がないと、伝えたい気持ちがあふれていなかったら役に立たないと思うので。私の考えや意見のすべてが雑誌ではないということがすごい大事なことだと思っているんです」

すべての編集者達の「これを伝えたい」という気持ちがあふれてこそ、雑誌はおもしろく、そして新しくあり続ける。それが今尾の編集長としての指針だ。

写真編集者とは常に顔を突き合わせて打合せを重ねる


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

絶えない情熱。私たちの仕事は締め切りがあるんですが。でもこれでいいやって思っちゃったら終わりだし。きれいに作ろうと思っちゃっても終わりなので。情熱を絶やさないことが一番大事かなと。

雑誌編集長 今尾朝子