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第273回 2015年8月3日放送

希望を灯(とも)す、魂の映画 アニメーション映画監督・細田守



人生は、捨てたもんじゃない

「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」など、数々のヒット作を手がける細田。一貫してテーマに据えているのが、「人生の肯定」だ。実は細田は、燦々(さんさん)と光り輝く道を歩んできたわけではない。かつて超大作の監督を降板するという人生のどん底を味わった。それでも、あきらめずに挑戦を続け、絶望の底からはい上がってきた。「人生は捨てたもんじゃない」、自らの経験に裏打ちされた信念が細田を突き動かしている。
企画の種も、細田自身が直面したつらい経験から生まれている。かつて親戚と関係が悪かったことから発想した「サマーウォーズ」は、大家族が一致団結して、世界の危機を救う話。そして子どもについて悩んでいたことから、前向きに子どもを育てる母の物語「おおかみこどもの雨と雪」を生んだ。
絶望から生まれた映画は、今、多くの観客にとって希望となっている。
「映画を作るとか、見るとかっていうのは、希望を表明する行為でさ。その時の自分は幸せじゃないかもしれないけど、人生は幸せかもしれないって大声で言っているようなものなんだよ。幸せじゃない人だからこそ、作ったり、言ったりする権利があるってことだよ」

写真コンテ作りは、アパートでこもりながら行う


作るのではない、作らされる

細田が目指す「人生を肯定する映画」。それは生半可な覚悟では生まれない。細田は8か月ものコンテ作業の間、まるで修行僧のような生活を送る。食事を一切とらず、深夜までぶっ通しで机に向かう。その姿勢の裏にあるのは、映画に対する畏敬とも言える念だ。
細田は、しばしば映画を一つの人格に例え、「作る」のではなく、「作らされている」のだと言う。ストーリーや構成、舞台設定まで、すべてが映画の求めるものになっているか。細田は何度もコンテを吟味し、映画を良くするためなら、スタッフに頭を下げる。映画は、監督のプライドなど必要としていない。自らを擲つ(なげうつ)ほどの覚悟がなければ、一本の映画など作れない。あらゆることに対して、謙虚な姿勢を貫き通している。
「ちっぽけなプライドだとか、そんなものをべつに作品は求めてるわけじゃないのよ。作品のために「おまえ死ね」ぐらいの勢いで迫ってくるわけだよね、作品っつうのは。自分がいかにぐうたらでも、ぐうたらだって言ってらんないわけですよ。その作品に引きずり回されるというか。びしびししごかれるというか」

写真驚くほどスタッフの意見に耳を傾ける


自由じゃない、正解は一つ

手描きでゼロから作り上げるアニメーション。その創作は一見自由なように思えるが、細田はコンテを描いている間、よく「違う」とぼやき続ける。細田にとって、アニメーション製作は「たった一つの正解を導き出す作業」だと言う。キャラクターの表情やしぐさ、セリフ・・・1つ1つの要素を徹底的に吟味し、無数の選択肢から答えを探し続ける。その正解を積み重ねていった先に、見る者を魅了する映画が生まれると信じている。
「正解に近づいたとき、すごくある一種の真実ににじり寄ったみたいなところを思える瞬間があるわけで、自分の思ってもないようなセリフや表情が出て来ることがあるわけですよ。そういうものを捕まえることができると、うまくいくんだよね。飛躍っていうかね。自分が考えていたものよりも、さらにぐわっと飛躍する。それを目指して作っていくっていう」

写真ヒロイン楓の表情を何度も描き直す


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

わかんないよ、そんなの。俺はプロフェッショナルなのかな。映画とか、映画を作ることの真理を見極めたいと思っている。

アニメーション映画監督 細田守