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第270回 2015年7月13日放送

度胸で仕入れ、情熱で売る 青果店 店主・杉本晃章



ハズレなし、すべてアタリ

「おいしい野菜を日本一知る八百屋」と称される、杉本晃章(67)。東京の下町・北千住にあるわずか15坪の店には、極上の野菜や果物を求めて、連日客が押し寄せる。
杉本が最も力をそそぐのが、「仕入れ」だ。毎朝通う青果市場には、全国から毎日120種類、600トンに及ぶ膨大な品物が集う。一般に野菜は、産地や品種、出荷の時期で質が大きく左右されるため目利きが難しいとされる。しかし、杉本はその複雑な組み合わせを知り尽くしているため、迷うことがない。もちろん品質に納得がいかなければ、どんなに安かろうが絶対に手は出さない。
「クジ売ってるわけじゃねえんだからよ。毎日アタリを仕入れるために頑張ってやってんだ。お客がいつどれを買ってもおいしいって言われるような店じゃなきゃダメなんだよ。『お父さんが買いに行ったら、変なの買ってきちゃった』じゃダメなんだ」。ハズレのないすべてがアタリの品ぞろえ。それが、杉本が頑固に守る、あるべき八百屋の姿だ。

写真仕入れは、いつも電光石火。超一級品だけを瞬時に選び抜く。
写真創業65年。父から店を受け継ぎ、年商9,000万円を誇る。


攻めて、攻めて、攻めまくる

スーパーやネット通販が全盛の時代、町の青果店は次々に姿を消している。逆境の中でも杉本が生き抜いてこられたのは、他にはない武器があるからだ。その一つが、キンピラ用のゴボウの千切り。柔らかいゴボウは太く、固いゴボウは細く切って、絶妙の食感を実現させる。お客さんは炒めるだけで、キンピラが作れてしまう便利な商品だ。トウモロコシも、特注の蒸し器でふかして甘みを最大限に引き出して売る。ナマの3割増しの値段だが、売れる本数は10倍に跳ね上がる。一番人気は、売れ残った大根やカブで作る自家製の漬物。仕入れたてよりも水分が抜けるためうまみが増すという、逆転の発想から生まれた看板商品だ。「こういうアイテムは、八百屋の一番の強みなんだ。守りじゃなく常に攻めの商売で、ドンドンいく。そういうスタンスはお客さんにも伝わるんだよ」。

写真毎晩、翌日分の漬物を作るために野菜を仕込む。


攻めて、攻めて、産地を守る

攻めの商いを貫く杉本は、市場での仕入れ以外に、独自ルートで全国各地のこだわり野菜や果物を入手している。紫色のまだら模様が浮かぶが、風味が強く柔らかな食感をもつ『縞(しま)インゲン』。香り高く豊潤な甘みがあふれる『雪中貯蔵リンゴ』。店には、個性的な品々が並ぶ。「他店との差別化だよ。キャベツと大根ばっかり売っていたら、ただの八百屋になっちゃう」と語る杉本だが、その心の底には八百屋としての強い使命感がある。「せっかく作ってくれているのに、我々流通がちゃんと評価しなければ、来年から作らなくなっちゃう。まだ世の中には、おいしいものがいっぱいあるんだよ。なじみがないとか、知らないとか、そういうのを打ち破ってお客にアピールしなきゃダメなんだ。それが八百屋の生きる道だよ」。

写真関東ではなじみの薄い『大長ナス』。おすすめの食べ方や調理方法を説明しながら売り込む。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

今までの経験におごることなく、常に新しい方向に目を向けて、日々チャレンジする姿を持つべきである。それに尽きます。

青果店 店主 杉本晃章