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これまでの放送

第269回 2015年7月6日放送

最先端は、地方でこそ生まれる フレンチシェフ・谷口英司



フレンチの最先端×富山の食文化=どこにもない料理

フランスの世界的な三つ星店などで最先端のフレンチを習得し、5年前に富山にやってきた谷口。華やかな経歴を持つシェフだが、彼の店ではフランス産のフォアグラ、トリュフといったフレンチで定番の、有名輸入食材がコースの主役になることはない。
出されるのは、地元でとれた山菜やヤギのミルク、イノシシや熊の肉、そしてホタルイカや白エビ、ゲンゲ、ノドグロなどの富山湾の海の幸が使われた、独自のフルコース。地元で食べ尽くされた食材が、谷口の手にかかると全く新たな料理へと生まれ変わっていく。
いま谷口が作り続けるのは、これまでに体得してきた最新のフレンチの料理哲学と、伝統の食文化を研究して活用、双方を掛け合わせた、「どこにもない料理」だ。

写真代表作、タラの料理「漆黒」。身の表面の黒い部分は富山の伝統食「黒作り」。黒作りが含む酵素で身のうまみを引き出す。
写真タラに添えるソースには、液体窒素で瞬間冷却して粉砕した、地元産のエゴマを使う。伝統と先進が融合した、谷口の料理の真骨頂。


その場所にこそ答えがある

どこにもない料理、それはとことん地元に密着し、地元の食材を使いこなすことにある。
その素材がある場所に近いからこそ、どのように生育しているか知ることができ、どのように持ち帰れば1番よいか、そのよさをどうやって調理で生かし切ることができるか、すべてを発想することができると谷口は考えている。
「これが地方の本当にいいところで。こういうことが僕らの調理の武器なんでしょうね」

写真店から車で10分の距離にある竹林で、掘りたてのタケノコがすぐに手に入る。


“ここにあるもの”を諦めない

素材を生かすことを諦めなければ、必ず新しい料理は生まれ続ける。そして、それこそが地方で料理を続ける意義。
「ここにあるものをどんだけ武器に出来るかにかかっているんですね。あるだけじゃだめなんです。あるものに対して、1つも2つもレベルアップさせていかないとだめですし、本当にそれの繰り返しやと思います」と谷口は語る。
谷口がこの春に挑んだのは、地元産のアイガモ。アイガモ農法で米を育てている地元の農家から託された素材だ。田んぼで働き終わったアイガモを有効に生かしたいという思いに応えるべく挑んだが想定以上の高い壁が立ちはだかった。だが、谷口は諦めない。
「もう嫌になったとなったら、もうそれまでですけど。でも今はそうじゃないし、彼女もすごいやる気やし、僕もやる気やし。ほんとにそうやって続いて、いいカモができていければ、絶対おもしろいです」

写真生後1年ほどたったアイガモ。皮の固さが壁として立ちはだかった。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

僕たちはすごくなくていい。ただ、「ここはすばらしい」、そういうふうな料理が出せたら。

フレンチシェフ 谷口英司


プロフェッショナルのこだわり

“革新”は、地方でこそ生まれる

地元産のものに徹底的にこだわる。その姿勢は、店で使うテーブルや食器などにも表れている。
テーブルは、地元の木工作家に谷口が特注して作り上げたもの。ランチの際にはテーブルクロスを使わず、日光が差し込む中で木目を生かしたテーブルの素地を味わうという演出を行っている。また。ナイフやフォークは机の上には置かず、テーブルの引き出しの中から客が自分で取り出して使う。
フレンチレストランとしては少し異質なセッティング。これは実は、過剰なサービスを排し、素朴さを全面に出そうとする谷口の姿勢が現れている。
いま、世界の先進的なレストランでは、こうした素朴さや簡素さを美徳とする店作りが広まりつつある。谷口はこうした世界的な潮流を取り入れ、都会にはない新しい価値観を富山で作り上げようとしている。
谷口は考える。「日本の“地方”を、もっと誇れないのかなと」。
週に1度の休日には、農家などの生産者のもとを回るのに加え、富山県中に散らばる職人や工芸作家のもとにも訪れ、店を彩る新たな“素材”の発掘に精を出す。
「絶対に、その地方の“地元のもの”を誰よりも知っとかないとだめですし、理解もしないとだめです。絶対に今からの料理人には、それが求められている。これがスタンダードなレストランであるべきなんです。」
「間違いなくここでしか食べられない」。その体験に、谷口はこだわり続ける。

写真特注のテーブル。ランチの際はテーブルクロスを使わない
写真引き出しの中にナイフやフォークが入っていて、客が自分で取り出す
写真
写真週に1度の休みには富山県中を駆け巡り、新たな“素材”を探す。谷口はこの時間を「宝探し」と呼び、何よりも大切にする。