スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第257回 2015年3月2日放送

ふたりの約束 魂の惣菜 食品スーパー経営者・佐藤啓二・澄子



お客さんと競争だっちゃ

仙台駅から車で30分。人口4,000あまりの山あいの町ながら、佐藤夫妻が営むスーパーには行列が絶えない。大半の客の目当ては、おはぎや弁当といった手作りの惣(そう)菜だ。
「うちの惣菜は家庭で作れる平凡な料理ばかり」と妻の澄子は謙遜(けんそん)するが、そのこだわりは尋常ではない。深夜1時には起床、2時にはちゅう房に入り、35名のスタッフを束ねて毎日100種類もの惣菜を作る。最も手をかけるのは看板の煮物。焦げる寸前まで煮しめて、芯まで味をしみ込ませ、冷めてもうまみが落ちない工夫を凝らしている。
澄子たちが作るのは、高級料理ではない。どの家庭にもあるような“おふくろの味”。だからこそ澄子は「お客さんと競争だっちゃ」とみずからに言い聞かせ、「もっとおいしくできないか?」と日々試行錯誤を続けている。

写真澄子は専務として惣菜の“味”を取り仕切り、夫は社長として売上など“数字”を管理する。ふたり、あうんの呼吸で店を切り盛りする。
写真ピークには1日250万円も売り上げる名物おはぎ。添加物や保存料は使わず賞味期限は1日限り。控えめな甘さが人気の秘密だ。
写真看板商品の煮物は、具材ごと別々の鍋で煮込むため、午前2時には仕込みを始める。昔懐かしい、おふくろの味だ。


つねに「きちっと」

夫の啓二が店に姿を現すのは、早朝5時。朝いちばんの日課は掃き掃除。真冬でも白い息を吐きながら、店から100メートル離れたバス停まで丁寧に掃いていく。「自分の庭と同じですよ、お客さんがいらっしゃるんですから。道路が汚いのに自分の家ばかり磨いていてもダメなんです」。
つづいて、まだ薄暗い店内で商品の陳列を直す。客が手に取りやすいように、社長であるみずからが整理整頓を徹底することが店の“姿勢”を作っていくのだという。「まず自分自身の姿勢をきちっとしないとダメなんですよ。お客さんに来店いただくような店作りをしましょうってこと。それだけなんですよ」。
開店後もみずから店頭に立ち、客に不便がないようにカゴを笑顔で渡していく。ただおいしいものを作るだけではお客からの支持は長続きしない。商いの基本を社長みずからが率先して「きちっと」示すことで、ふたりの店は切り盛りされている。

写真社長の啓二を筆頭に、あらゆるスタッフが客に笑顔で積極的に話しかける。


客の笑顔を思い浮かべる

「おいしい惣菜を作るために最も大事なことは何か?」その問いに佐藤澄子はこう答える。「自分の奥さんでもいいし、お母さんでも誰でもいいから、“こういうものを食べたら喜ぶんじゃないかな?”と思い浮かべること。その気持ちを持っていることがいちばんなの」。
自分にとって大切な人を思い浮かべ、どうすればその人に喜んでもらえるかを考える。例えば夫、妻、子、父母、先生、どんな人でもいいという。食べてもらいたい相手を具体的にイメージして作る。すると、“ただの惣菜”が“あの人に食べさせたい惣菜”に変わり、1皿の隅々にまで、作り手の心が行き渡っていくと考えている。

写真毎年恒例のおせち。美麗な盛りつけには“心”が欠かせない。


一人のお客を幸せにする それが第一歩

佐藤夫妻が店を開いたのは35年前。地方で家族経営の小さなスーパーが生き残っていくために、安売りで集客を図った。だが、大型チェーン店に安値競争でかなうはずもなく、客からはそっぽを向かれ、苦境に立たされた。
そんなとき、一筋の光明となったのが惣菜だった。きっかけは「ほうれんそうはゆがくのが面倒だ」という客の声。澄子がほうれんそうをおひたしにして小分けパックで売ってみたところ、「ありがとう」と喜ばれ、予想外の売れ行きを記録した。以降、「おはぎが食べたい」という女性のためにおはぎを作るなど客のリクエストに応え続けた結果、いつしか惣菜が店の柱に成長し、行列ができる人気店になっていた。
2人は来し方を振り返って言う。「1人のお客さんを幸せにする、喜んでもらう。たったそれだけなんですよ。1人ってことは実は1人じゃないんですよ。大勢の中の1人が第一歩だからね。だからまずは1人でいいんですよ」。

写真日々、客と対話する佐藤夫妻。要望に地道に応えることで、名物のおはぎも生まれた。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

佐藤啓二: 自分の目的意識をきちっと決めましたら、それにまっしぐらに磨いて進むことがプロフェッショナルだと思います。佐藤澄子:お客さん、1人1人に喜んでもらえる人、それしかないよね。それだけなんだよ。

食品スーパー経営者 佐藤啓二・澄子


放送されなかった流儀

いつだって“80点”

澄子は、何事にも点数をつけることが大好きだ。ただし、最高得点はいつだって“80点”。残りの“20点”は、必ず次回への伸びしろとしてとっておく。これは澄子の信条であると同時に、澄子と啓二が「本物の味」を目指し続けていることにも起因する。本物をめざす限りは、現状でどれだけうまくいっても、決して満足してはならないからだ。

写真ちゅう房には、毎日のように澄子の指導の声が響く。