いま世界を恐怖に陥れる、エボラ出血熱アウトブレイク。根本的な治療薬はなく、 8,000人の死者を出す未曽有の惨事となっている。このウイルスと20年もの間対峙してきた髙田。先行研究もほとんどない中、感染メカニズムを解明するなど、研究の道を切り開いてきた世界的第一人者だ。
その髙田がまた、エボラウイルス研究の大きな一歩となる知見を得た。
それは、エボラ感染を防ぐ『究極の抗体』の発見。現在知られているだけでも、エボラウイルスには5つの種類があり、これまで一定の効果が認められている治療薬などは1つの種類にしか効かない抗体を利用したものだ。髙田が発見した『究極の抗体』は5つすべての種類に効力を発揮するため、どの種類のエボラウイルスに感染しても対応ができるという、かつてない治療薬となる。
世界が待ち望んだ、世紀の発見とも言うべき偉業だが、当の髙田は至って冷静な態度で、こう語る。
「僕らがやらないと、僕たちのグループがやらないとどこもできないんじゃないかという使命感はありますね。それを淡々とやっているというのが僕らの日常で。淡々と抗体がありますと。これが効くはずだと。これが効くということを科学的に証明しなきゃというので、証明してきて。証明したところまでが科学者のいちばんの役目であってさ。僕ら淡々とやってるからね、研究。」
みずからに与えられた使命をただ、淡々とやり続ける。それが髙田が貫いてきた科学者としての姿勢だ。
国内最高のセーフティレベルを満たした実験室で治療薬の開発に取り組む髙田。
エボラウイルス5種類すべてに効力のある「抗体」。
やるべきことは無限にあるという髙田。さらなる新薬開発に向け、スタートを切った。
髙田のもとには、世界各国からウイルスの調査依頼が舞い込む。そのため、1年の半分近くは世界各地を飛び回る生活だという。たとえば昨年10月だけでも、新型の鳥インフルエンザウイルスの侵入を監視するためインドネシアへと飛び、さらにエボラウイルスの自然宿主の解明と感染疑い患者の診断を行うためアフリカ・ザンビアへと向かった。
どんなに多忙を極める毎日であっても、どんなに研究の環境が整っていない途上国であっても、みずから現場に赴いて研究を行う。髙田は、その理由をこう語る。
「仕事って、誰か、他人のためにやってますよね。それは研究者も同じで、研究は好きなんだけど、それだからで成り立つわけないわけでさ。社会の中の仕事って、必ず他人のためだと思うんです。人の生活をよりよくしていくっていうのが、科学者の役目だと思いますけど。」
子どものころから生き物が大好きで、「もっと知りたい」という知的好奇心をモチベーションに研究の道を突き進んできた髙田。しかしそれを生業として選んだ今、最も重きを置くのは、誰かのために科学者としてできる限りを尽くす、という信念だ。
鳥インフルエンザの調査で訪れたインドネシア。髙田の技を盗もうと、若手研究員たちが人垣をつくる。
エボラウイルスの自然宿主と疑われるコウモリ・フルーツバット。
アフリカ・ザンビアでは技術指導にも力を入れている。