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これまでの放送

第242回 2014年10月27日放送

ぶれない志、革命の歯科医療 歯科医・熊谷崇



自分の歯を知り、意識してもらう

診療所に通う子どもの8割が、20才になっても永久歯に虫歯が1本もできないなど、世界屈指の実績を上げている熊谷。その実績の裏にあるのは、地道な患者教育だ。一般的な歯科医院でも、手鏡を患者に持たせ、歯を見せることで「自分の歯」について知ってもらおうとするが、熊谷はその方法が徹底している。口の中の写真やレントゲンを各患者ごとにそれぞれ10枚以上撮影。さらに虫歯の成り立ちに深い関わりのある唾液の検査を行うなど、ありとあらゆる手を使って、個々人の口の中の状態を知らせ、意識してもらう。熊谷は番組の中で次のように語っている。
「自分の口の中に何本詰め物があって、いつ詰めたのか、誰が詰めたのかもわからない。お任せの診療をされているので。もう本当に情報が閉鎖されちゃっていると。できるだけ患者さんにわかりやすい記録を見せて、そして患者さん自身が考えて。考えるためには情報がいっぱいないと考えようがないですからね。」
患者が歯を守りたいという意識を強くもってこそ、予防は成功する。熊谷の揺るがない考えだ。

写真熊谷の医院で撮影した口腔内写真
患者1人につきこうした写真を12枚撮影し、その汚れや治療の状態を見せることで歯に対する意識を変える

写真唾液に含まれる虫歯菌を培養している様子
患者にその検査結果を見せ、患者個人によってちがう虫歯のなりやすさを意識させる

写真レントゲンも患者1人につき10枚以上撮影する


逃げない、ブレない

熊谷の医院に通う患者たちにはめったに虫歯ができない。しかし取材中熊谷は、メンテナンスに通っていながら、神経にまで達する虫歯が出来た患者に対応することになった。調べてみると、患者は歯科衛生士からの再三の歯磨きなどのホームケアの要請があったにもかかわらず、熱心には行わなかったことがわかってきた。一方診療所としても、患者教育が徹底できていなかったことが浮き彫りになってきた。熊谷がこうしたとき大切にするのは、真の患者利益を見据え、絶対に逃げず、ブレないこと。熊谷は、自分たちの落ち度も、患者に改善してもらいたい点もあいまいにせず洗いざらい話し、患者の理解を得た。
山形・酒田で今のスタイルでの歯科医療をはじめた35年前、熊谷のやり方は患者に全く受け入れられず、ときに患者に罵倒されることさえあった。だが熊谷は、どんなに苦境に立たされても考え方を曲げずに貫いたことで、次第に患者の信頼を勝ち得、今の実績を積み重ねてきた。「真の患者利益とは何か」。熊谷は今日もその問いを胸に、患者と向き合う。

写真メンテナンスに通いながら虫歯になってしまった患者と、熊谷は徹底的に話し合った
写真患者への説明には、かつて撮影したレントゲンや口腔内写真が絶対に欠かせない
写真医院のカルテ倉庫にて
35年前に訪れた最初の患者からすべての資料を大切に保管してきたことで、説得力のあるアドバイスをすることができる


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

あえて困難な道を選択し、先入観とか既成概念にとらわれず、情熱を傾けて、そして創意工夫し、ぶれずに目的を達成しようと努力する人、という風に思ってます。

歯科医 熊谷崇


プロフェッショナルのこだわり

熊谷が患者の歯を守るために、患者に義務づけていることがある。治療をすべて終え、歯が痛くなくなったあとも、数か月ごとに通院してもらい、歯科衛生士の「メンテナンス」を受けることだ。歯は1度抜けたり、虫歯のために削ってしまえばもとには戻らない。そうならないために、歯周病や虫歯の原因となるバイオフィルムと呼ばれる細菌の集合体を、メンテナンスで定期的に破壊するのだ。さらに熊谷は、治療やメンテナンスのたびに収集した患者の写真やデータを、開業以来すべて保存してきた。そうすることで、あらゆる年代のあらゆるケースに対応でき、患者にも説得力のある説明が出来る。熊谷の世界的実績は、35年の地道な積み重ねの上に成り立っている。

写真メンテナンスで定期的に熊谷の医院に通う人は1万人以上。
医院に通う子どもたちの8割は20才になるまで永久歯に虫歯が1本もできない。