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これまでの放送

第223回 2014年2月3日放送

街を灯(とも)す、真心の洋菓子 洋菓子職人・橫溝春雄



“真心”を、突き詰める

都心から離れた郊外の住宅地にありながら、連日400組を超える客が集まる横溝の洋菓子店。
その手が生み出す洋菓子は、ザッハトルテ、イチゴのショートケーキなど素朴で家庭的なものがほとんどだ。創業から25年、数多くの熱烈なリピーターを生み出し続けている秘密は、48年間研さんを積み重ねた技術だけではないと、横溝は言う。レシピ通りに作っても、その日の温度や湿度によって出来上がりが変わる洋菓子の世界。横溝は生地作りやクリーム作りなど、いかなる工程においても、その状態が最高であるか、目や肌で確かめながら丁寧に仕事を積み重ねていく。その基本を絶対におろそかにしない。「食べる人に、少しでも喜んでもらおうと、真心を細部に宿らせ、突き詰める。母親が子どもに作るような、温かみのあるお菓子、それが目標です。」そう横溝は語る。
その信念は、食材の選び方にも表れる。果物は契約した農家から送ってもらった旬のものに限定し、その時期以外は使わない。
そして作り立てが常に店に並ぶよう、少量ずつ、その都度作る。
手間を惜しまず、真心を込めることで、横溝の店は熱狂的な支持を集めてきた。

写真横溝は、客に出来たてを食べて欲しいと、少量を繰り返し作っている。


ひとつのケーキの先に ひとつの笑顔がある

横溝は、現在25名(※放送時)の弟子を抱える親方でもある。そのほとんどは、横溝の下で職人のキャリアをスタートさせた者たちだ。弟子たちに横溝が繰り返し言うのが、「ひとつのケーキの先に、ひとつの笑顔がある」という言葉。横溝の厨(ちゅう)房では、1日1,500個を超える生菓子、3,000個を超える焼き菓子が作られている。またそのラインナップも、季節ごとに少しずつ変わる。そうした中で、自分たちが生み出すどの菓子をとっても、食べた人が思わず笑顔になるクオリティがなければ、プロの仕事ではない。洋菓子職人は、食べた人を幸せな気持ちにできる仕事。その誇りと責任をいかなるときも忘れてはならないと、弟子たちに伝え続けている。

写真職人の“心”を、弟子に日々伝えている。


君の失敗は、僕の失敗だ

親方として弟子を育てる横溝は、職人の世界では珍しく懇切丁寧な教え方をする。例えば、若い弟子が生地作りを失敗したときには、その弟子の横に寄り添い、1から作業をともに見直す。失敗の原因を見つけ、それをしっかりと認識させれば、2度と同じつまずきはなくなり、着実に成長していけると考えるからだ。横溝自身、ヨーロッパで修業していた20代、パン生地作りがどうしてもうまくいかず追い詰められたことがあった。そのとき、雲の上のような厨房の責任者が、言葉も通じないなか、身振り手振りで1日寄り添い、一緒に失敗の原因を探してくれた体験を持つ。「こういう親方になりたい。」当時思った気持ちのままに弟子と向き合い、これまで50名を超える優秀な職人を世に送りだしてきた。

写真弟子が失敗したときは、一緒にその原因を探る。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

決めた自分の仕事を信じて、まずやり続ける人。そして、現状に満足しないで常に努力し続け、そして最終的には感動を与えられる、そういう人がプロだと思います。

洋菓子職人 橫溝春雄


プロフェッショナルのこだわり

街のケーキ屋さんとして、地元の人に愛される温かい店でありたいと考えてきた横溝。そのこだわりは、洋菓子の味以外にも及ぶ。例えば、店構え。おとぎ話から飛び出したような楽しい外観が特徴だ。また店の厨房の様子は、売り場の窓から自由にのぞける設計。子どもたちが、洞穴のなかをのぞくように、ワクワクさせたいと考えたからだ。
ハロウィンやクリスマスなどのイベントの時期は、スタッフ総出で店の内外に飾りつけを行い、通りかかる人にも楽しげな雰囲気を感じてもらうようこだわっている。閉店後も、ランタンの灯は夜通しつけておく。どうしたら街の人にほっとしてもらえるか、そのことを横溝は考え続けている。

写真店の飾りは手作りのものも。飾り用のクッキーを仕上げる。