スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第213回 2013年10月14日放送

探検こそが、人生を彩る チーズ農家・吉田全作



幻と呼ばれる、チーズ

吉田のチーズは、その入手の困難さから「幻のチーズ」とも呼ばれる。全国の名だたる料理人から注文が絶えない。
もちもちとした食感とジューシーさが特徴のモッツァレラ、焼くとミルクの芳じゅんな味わいが広がるカチョカバロなど、作っているのは8種類だ。
これらのチーズは、吉田が暮らす岡山・吉備高原の山あいで作られている。みずから牛を育て、その搾りたてのミルクだけを使う。増産の求めにも一切応じず、家族で作れる量を守る。牛1頭1頭に気を配り、その品質を落とさないためだ。家族との生活、団らんを守りながら作るチーズこそ最もおいしいと、吉田は信じている。

写真モッツァレラチーズ
写真放牧でのびのびと育つ牛


風土の力を凝縮する

牛の体調、乳酸菌など微生物の状態、気温や湿度・・・さまざまな条件を読み切り、その力を最大限に引き出すのがチーズ作りだ。毎日同じやり方、というわけにはいかない。時間や分量はあくまで目安だと吉田は言う。「うまくできたときのやり方が、必ずしも次に応用できるとは限らない。数字ばかり追っていては、日々変わる条件に対処できない」。
岡山の、その地でしか生まれないチーズを吉田は追求する。

写真1つ1つの工程に、知識と経験が込められる
写真マニュアルのない、真剣勝負の毎日


迷ったときは、たとえ遠回りでも、尾根に登れ

北海道大学の探検部に所属していた吉田。アリューシャン列島や知床の流氷など、極限の世界を切り抜けてきた。そのときの教えを、今も胸に持ち続けている。「山で迷ったときは、楽に思える下りを選ぶのではなく、遠回りだとしても尾根まで登る」。
東京での5年間のサラリーマン生活を経て、未経験で飛び込んだ酪農とチーズの世界。毎日失敗ばかりだったが、楽な道には決して逃げなかった。ミルクの質を上げるために牛を放牧に変え、それに適した品種を県に掛け合って輸入した。乳酸菌をみずから培養することにも挑戦した。
「人生の岐路では、必ず面倒くさい道を選んできた。面倒なことは誰もしないし、より多くのヒントが転がっている」

写真アリューシャン列島にて


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

後世にちゃんと伝えられる仕事をするってこと。考えられること、やれることはすべてやる。やれるだろうと思うこともすべてやる。

チーズ農家 吉田全作


プロフェッショナルのこだわり

味は、すべての作業の積み重ねで決まる

「チーズ作りで最も大切なことは?」と吉田に聞くと、答えられないと言われる。なぜなら、どの工程もチーズの味に関わる大切なものだからだ。
例えば、炎天下行われる放牧地の草刈りや石拾い。4ヘクタールに及ぶ敷地を、汗かきながらまわる。さらに、乳搾りの時に牛を入れる牛舎の掃除も欠かさない。ミルクに嫌な臭いがつかないようにするためだ。自宅に戻ってからも、チーズにまつわる論文を調べては、生かせることはないかチェックする。
そうした1つ1つの積み重ねが、吉田のチーズに凝縮されている。

写真炎天下行う、放牧地の石拾い
写真自宅にて、チーズにまつわる論文を調べる