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これまでの放送

第201回 2013年5月20日放送

革新への情熱、未(いま)だ衰えず 起業家・坂本孝



ため息をチャンスに変える

三つ星レストランや高級ホテル出身の料理人が作る本格料理を一皿千円前後という破格の値段で提供するという、常識破りな飲食店を立ち上げた起業家・坂本孝。イタリアン、フレンチ、割烹に、焼き鳥と、その種類は多岐にわたるが共通しているのは料理の原価率(値段のうち原材料費が占める割合)の異常な高さだ。通常の店では3割程度とされているが、坂本の店では6割程度に設定し、客に抜群の満足度を提供している。こうした発想は、これまで予算のくびきに縛られ、本当に思うような料理を作れなかったという、一流料理人たちの「ため息」を耳にしたことから始まった。30代の時、「高価なピアノをもっと安く買えたらいいのに」という人々の声に応え始めた中古ピアノの販売、50歳の時、「気軽に読み終わった本を売買できたらいいのに」という不満の声に応え立ち上げた中古販売チェーン「ブックオフ」。世の中の不満を読み取ることで、坂本は生涯で13ものビジネスを立ち上げてきた。

写真 フードの原価率が平均60%を超えるのが魅力
写真古本販売チェーン・ブックオフの創業者でもある坂本。今回の飲食業が生涯13番目の起業となる。


困難な道を避けたとき、成長は終わる

坂本の出店方針は大胆だ。一流と言われる飲食店ひしめく東京・銀座8丁目に次々と出店。中には、それぞれの店が数十メートルしか離れていない店もある。仲間同士の店で客の奪い合いになるという意見もあるが、それぞれの店が競い合うことによって、激戦区を勝ち抜くすべをそれぞれが考え出し、そのノウハウを社内で共有することで、ライバルに負けない飲食店グループを作るというのが坂本の目的だ。「飲食業の革命」のため、あえて困難な道を進む姿勢を経営者自らが部下たちに示す。そこには企業の運命は、トップの心の持ち方にかかっているという坂本の強い自負がある。

写真社長室を持たない坂本。部下の相談にいつでも乗れるようにしている。


人を成長させるのが、真の会社

坂本は、新規店を立ち上げる度にほかの店で働く料理人や店長たちを呼び試食会を開く。そこで披露される料理は、一流の料理人たちが新しい店の看板になればと度重なる試行錯誤の末に出されるものだ。しかし、こうした場で坂本はあえてだめ出しをすることを心がける。そして、試食会にやってきたほかの店の料理人や店長たちにも、足りないと思う部分を率直に発言することを求める。そもそも坂本の元に集まってくる料理人たちは、互いに腕を認め合う一流同士。それゆえ、互いの料理に対してケチをつけたがらないと坂本は感じている。しかし、その壁を取り払い互いに向上していくために意見を言い合うことが、それぞれの料理人のさらなる成長につながると坂本は考える。

写真働く人の幸せを追求する坂本。現場での対話も欠かさない。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

柔らかく言えば、そこで一緒に働く仲間の、そこで働いている仲間が、何人幸せに出来るか、それがイコール、プロフェッショナルだと思っています。

起業家 坂本孝


放送されなかった流儀

挫折の共有が、仲間への第一歩

坂本のもとには、恵まれた環境で働きたいとたくさんの料理人が入社を希望しやってくる。坂本はその一人ひとりに会い面接を行っている。「自分を思いっきり自慢してみて下さい」など、その人のセールスポイントを語らせる一方で、その人があまり積極的にははなしたくないであろう過去の挫折話も聞くことを大事にしている。自分の弱みにもつながることを話すことは勇気がいること。しかし、会社という、見ず知らずの人間が集まって作られる組織で働いていくときには、そうした部分も打ち明けて、共感しあうことが必要で、そこから強い信頼関係が生まれると坂本は考えているからだ。