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これまでの放送

第194回 2012年6月4日放送

ふたりが信じれば、大胆になれる 建築家・手塚貴晴 手塚由比



たくさんの要望に応えるより、たったひとつの“お気に入り”を作る

大胆で特徴的なデザインで知られる手塚貴晴と手塚由比の建築。二人が建物を作るときに心がけている流儀が「たくさんの要望に応えるより、たったひとつの“お気に入り”を作る」ということ。たとえば家を作るとき、依頼主は間取りや収納について、たくさんの要望を手塚たちに伝える。しかし、その要望をすべて叶(かな)えることは難しいことも多く、さらに二人は全ての要望に添うだけだと場合によっては平均的でつまらない建築になってしまうと考えている。そこで、すべての要望を満たして満足させるよりも、どこかひとつ、その建物を気に入ってもらう取り柄を作るようにしている。人が大切にするのは、自分だけの、個性のある、世界にひとつの建築。そんな信念があるからこそ、二人は斬新なデザインの建物を世に送り出し続けることができる。

写真依頼者と打ち合わせをする手塚たち


ふたりの力で、大胆に常識を超えろ

世界にひとつの“お気に入り”を目指す二人の建築。その大胆なアイデアは夫婦ならではのコラボレーションで生まれる。基本的な設計を担う夫・貴晴はどちらかというと理性でアイデアを積み上げていくタイプ。すると、必ず一人では越えられない壁にあたる。そんな時に妻であり、建築家である由比の存在が欠かせない。妻・由比は直感的かつ客観的な目で貴晴の設計案を見ていく。時に理性的すぎて、平凡になりそうなアイデアを独創的なアイデアに仕上げるのが由比の役割。本当にクリエイティブなものは理論を越えた所にある。そんな境地に達するために二人のプロとしての異なる特徴が必要になる。二人がいいねと信じたものなら、大胆なアイデアも、決して一人よがりではない、人々から愛される建築になると二人は信じている。

写真写真ふたりで家の模型を作る


建築には人を変え、人を豊かにする力がある

これまで数多くの「お気に入りの建築」を生み出してきた二人。そのたびに二人が驚くのが建築の持つ力の大きさ。たとえば、隣の敷地に住む実家の親と仲良く暮らしたいという思いに応えて作った、家の片側が実家に向かって全面開かれた「縁側の家」では、家の完成後に実家の母親が頻繁に縁側を訪れるようになった。母親は孫とすごす時間が増え、そのひとときが母親の生き甲斐(がい)になった。建物が、中に暮らす人々の暮らしを大きく変え、豊かにする力を持っている。そのことを強く実感している二人だからこそ、建物の窓一つ、手すり一つといった細部にまで一切妥協しない徹底したこだわりを貫くことができる。

写真被災地の幼稚園を再建する


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

手塚由比人が想像していなかった、予測していなかったいいものが提供できるというのが、プロの仕事だなと思っています。手塚貴晴自分の仕事に自信をもっているかどうか、それがプロフェッショナルだと思います。私は自分の仕事に自信を持ったまま、最後に笑って死にたいですね。

建築家 手塚貴晴 手塚由比


プロフェッショナルのこだわり

仲間はずれを作らない

建物には人を変え、人を豊かにする力がある。そう信じる二人が、自分たちの建物によせる一つのこだわりが、「仲間はずれを作らない」こと。誰かが一人孤独でいることを好まず、いつもみんなで笑顔でいて欲しいという二人の想いは、作る建築にも形となって現れる。二人が作る家の多くは、孤立した個室がない。2007年に完成した幼稚園は楕円のドーナツ型という独創的な形をしているが、このデザインも仲間外れを作らないというこだわりから生まれている。建物に端っこがあると、そこで一人で寂しく過ごす子どもが出てくる。たとえ一人でいても仲間といる安心感が得られるようにという思いをこめてこの幼稚園が誕生した。自分たちの作る建物の中ではみんなが一緒ににこにこ過ごせるように。この願いがどの建物にも息づいている。

写真仲間はずれを作らない