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これまでの放送

第144回 2010年10月18日放送

絆(きずな)を、最高のメスに 呼吸器外科医・伊達洋至


威厳より、笑顔

伊達の元には、ほかの病院で治療が難しいと告げられた患者も多くやってくる。一生に一大事のことが自分の身に起こり、中にはわらをもつかむ思いでいる人々に対して、伊達は、毎日時間を見つけては気さくに病室を訪ね、朗らかな笑顔で接し、心をほぐしていく。気持ちが前を向くことが、病と闘う上で大切だという。

写真患者と気さくに接する


手術は、恐ろしい

伊達は、進行肺がんや肺移植の手術をこれまで3000近く手がけ、その成績も世界的に飛び抜けている。それにもかかわらず、伊達はけっして手術への恐れを忘れない。毎朝出勤前にお寺を参拝し、手術の成功を祈る。命に直接影響する仕事である自覚をつねに強く持ち、気持ちを引きしめて手術に臨む。これこそが、伊達を超一流の外科医とする秘密だ。

写真写真出勤前に汗を流して集中、手を合わせるのが日課


“思い”が、力となる

伊達は、患者や家族の生きたい、治りたいという強い思いにふれるたびに、元気にしてぜひ世の中に帰してあげたいと強く思い、それによって医師の力が引き出されると信じる。伊達は1998年に日本で初めて肺移植を成功させた。それも、目の前の患者やそれまで救えなかった人々が、力を与えてくれたからこそなしえたことだと伊達はいう。
伊達の現場には、医師と患者や家族が互いに信頼しあい高め合っていく、確かな絆(きずな)がある。

写真患者と確かな絆(きずな)を築いていく


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自分がプロフェッショナルかどうかはわからないですけど、イメージとしては、努力をしてですね、なかなかほかの人にはまねができないような技術を持った人と、思います。

伊達洋至


The Professional’s Skills

破れやすい肺動脈の縫合

心臓と肺をつなぐ肺動脈は、極めて薄い上に血流量が多く、正確に縫わないと大出血につながる難しい血管だ。伊達はその縫合を、通常の半分程度の時間でやってのける卓越した技を持つ。
糸は、一般の医師が使う物より一回り細いものを使用し、糸を通した穴から血液が漏れる危険性を少しでも減らす。また縫い目の間隔も、血管の状態に応じて0.5ミリ単位のわずかな違いにこだわる。さらに、針を持ちかえるタイミングなどに工夫を凝らし、縫う時間の短縮に努めている。

写真細部への徹底したこだわりが手術の成否を決める


放送されなかった流儀

ひとりでは、何もできない

伊達は、仲間とのつながりをとても大切にしている。
大がかりな手術の前には、スタッフとともに「カツカレー」を食べて士気を高める。
これまで伊達は、さまざまな場面で周囲の仲間や上司に励まされ、助けられてきた。
日本初の本格的な肺移植手術に臨もうとした際、伊達は当時上司だった清水信義医師(当時岡山大学医学部第二外科教授)に「成功する確率は70%」と報告。その数字は決して高くないにもかかわらず、清水医師は伊達を信頼し、執刀を任せてくれた。ひとりだけで突き進むのではなく、周囲の理解と協力があってこそ、大きな仕事ができると伊達は考えている。

写真恩師・清水信義さんと