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これまでの放送

第134回 2010年1月19日放送

最後の希望、覚悟の手術 移植外科医・加藤友朗


共に闘う

アメリカ・ニューヨークの大学病院に勤める加藤のもとには、世界各地から重篤(じゅうとく)な患者がやってくる。臓器が機能しなくなり、根本的な治療は不可能と告げられた人々に加藤が施すのが移植手術だ。機能しなくなった臓器を切除し、脳死した人や親族などから提供された健康な臓器と入れ替える。しかし、移植手術にはリスクがつきものだ。患者は拒絶反応を抑えるため、免疫抑制剤を飲み続けなければならず、命にかかわる合併症の危険も低くない。決して簡単ではない移植手術だからこそ、加藤が大切にしているのが、医師と患者が共に病気と闘う姿勢だ。診察では、患者からの質問が出つくすまで切り上げることはしない。手術の内容やリスクについてとことん話し合い、お互いが納得して初めてスタートラインに立てるのだと加藤は考えている。

写真患者の気持を真正面から受け止める加藤
診察が一時間を越えることもざらだ


しつこく、食い下がる

移植手術の山場は、臓器の血管を寸分違わず縫い合わせること。細心の注意をはらい細かく糸をかけていく。しかし、加藤の真骨頂は、この後の作業にある。小さな血のにじみのチェックだ。加藤は出血箇所を徹底的に探し出し止血作業を行っていく。わずかな出血でも痛みや回復の遅れにつながることがあるからだ。「止血してもその後の回復に影響しないかもしれない。でも、影響するかもしれないなら、やっぱり余計に時間を費やす方がいい」加藤は自分で満足できるまで、一切の妥協をせずしつこく作業を続ける。

写真ほんのわずかな出血も加藤は見逃さない
最後の最後まで気を抜くことは決してない


困難でも、希望のある道を行く

去年、秋。加藤は困難な手術に挑もうとしていた。すい臓の周囲に直径8センチの腫瘍(しゅよう)ができていた女性患者の手術だ。腫瘍は重要な血管をいくつも巻き込み、そのまま切り取ると大出血を起こす。手術は不可能と診断されていた。しかし、加藤にはアイデアがあった。まず血管をバイパスさせ腫瘍と共に周囲の臓器を一端体外に取り出し、腫瘍を切除。その後、再び臓器だけを体内に戻すという、移植手術の技を応用した手術だ。手術は、予想外の事態の連続だった。あらゆる臓器で見つかった癒着、複雑にからみついた腫瘍の処理。手術は24時間を超える長時間の闘いとなった。さらに、すい臓で見つかった異常な血管。血管を破らずにすい臓から離さなければならない。この血管の処理の仕方で患者の人生は大きく変わる。一睡もせず手術を続ける加藤は、患者のその後の人生を考え、たとえ困難があろうとも果敢に挑戦する道を選んだ。

写真異例の長時間手術。加藤は気力を振り絞り、患者と向き合う


プロフェッショナルとは…

周囲に期待されていること、それから自分としてやらなきゃいけないこと、それが満べんなくバラツキなくできることだ、そういう風に思いますね。

加藤友朗

The Professional’s Tools

血管を縫う

加藤が行う移植手術で重要なのが、血管と血管をつなぐステップ。血液が漏れてはいけないし、逆にきつく縫いすぎると血管が細くなり血液が詰まる危険性もある。緩すぎず、きつすぎず縫いあげる超微細な技術が要求される。その加減は1ミリにも満たない。こうした細かな部分こそが手術の結果を大きく左右すると、加藤は語る。

写真写真二本のブタの血管がぴったりとつなげられた


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