農薬を使わず、アイガモに食べさせることによって田んぼの雑草や害虫を除去するアイガモ農法。この農法を世界に広めたのが、福岡の農家・古野隆雄だ。
古野は、27歳で農薬も化学肥料も使わない米作りを決意。しかしその後、伸び続ける雑草を朝から晩まで抜き続ける毎日を過ごした。月収が、少ない時には3万円という厳しい日々を耐え抜き、ついに転機が訪れたのが10年後。富山にアイガモを使って雑草をとっている農家があると聞き、すがる思いで農法を学んだ。しかし、今度は野犬が古野の行く手を阻む。どんなに手段を講じても野犬によってアイガモが殺されてしまうのだ。
遂にあきらめようと妻と話をしていた時、部屋に7歳の長男が入ってきた。そして、仕掛けがまた破られたことを聞くと、こう言った。「じゃあ、またヒナ買うとやろ」。
幼い頃から挑戦し続ける古野を見てきた息子にとって、失敗してもまた挑むことが当たり前と思っていた。古野は、長男の言葉に奮い立った。そして、ひとつのことに気づく。
「うまくいかないことが、当たり前」。やがて古野は、たまたま訪れた山間の村で、畑をいのししから守る電気柵に目をとめる。これで、野犬の侵入をくい止められないか。すぐに業者にかけあい、田んぼに張り巡らせると、効果はたちどころに現れた。その秋、古野の田んぼには一面の稲が育った・・。
そして今、古野はひとつの言葉を逆境に向かう人に送りたいと考える。「どんなに辛い時でも、明日は必ず来る」。