40年以上にわたって海と向き合ってきた中村は、海に入るときの心構えを「海にお邪魔する」と表現する。それは、長年自然を相手に仕事をしてきた中村ならではの哲学だ。「海に挑むと言ったって、かなわないから。まったくほかの生き物の住む偉大な世界。そこをちょっとのぞかせてもらうという気持ち。」
40年以上にわたって海と向き合ってきた中村は、海に入るときの心構えを「海にお邪魔する」と表現する。それは、長年自然を相手に仕事をしてきた中村ならではの哲学だ。「海に挑むと言ったって、かなわないから。まったくほかの生き物の住む偉大な世界。そこをちょっとのぞかせてもらうという気持ち。」
初めての海に潜るときは、今でも「恐い」という。
中村は、魚の顔を真正面からクローズアップでとらえることを得意とする。しかし、警戒心の強い魚に接近するのは容易なことではない。中村は冷たい潮の流れに耐えつつ、何分も何十分も時間をかけて近づいていく。大事なのは、海の生き物たちをよく観察し、その暮らしぶりを脅かさないように気を配ること。生き物たちに「敵ではない」と認められて初めて近づくことを許される。
海の生き物を撮影するときの神髄は「気配り、心配り」。
水中での撮影は過酷なものだ。体には常に大きな負担がかかる。それでも、中村は海へと向かう。懸命に生きるささやかな命に触れたときの驚きや感動が、中村を突き動かす。「命をまっとうするために生きているということ。目の前にある環境の中で、満足はしてないかもしれないけど、その中で懸命に生きているということに対して非常に敬意を払います。そういう生き物がいる限り、僕はやっぱり見てみたい、写真を撮っていきたい。」
「生きたい」。赤ちゃんサンゴの声なき声をフィルムに刻む。
中村が長年撮りためてきた、魚の顔を正面からとらえた写真。魚を横から写した「図鑑写真」に比べて撮るのは難しいが、魚の表情や個性までも感じ取ることができる。
誰かさんに似ている顔も…。
世界最大の魚ジンベエザメ。温厚な魚だが、突然の遭遇に驚いた中村は「ジョーズ」に襲われたと思い、失神してしまったという。薄れる意識の中で撮っていた一枚。
驚きの撮影エピソード。
ライフワークである東京湾で撮影した一枚。ハゼの一種「チチブ」が空き缶を住み家にしている。中に卵も産みつけるという。上の一匹は缶を奪おうとするも、頭が大きくて入らず断念。
誰が捨てた空き缶か。たくましい東京湾の生き物たち。