医師・中村伸一が運命の出会いをしたのは、17年前だった。医師になって3年目、京都との県境にある福井県名田庄村(現:おおい町名田庄地区)の診療所にただ一人の医師として赴任。以来、住民たちの命と健康を支え、時には逆に支えられながら、医師として成長してきた。
「日本の原風景が残る山村に恋をし、結婚した」自らと地域との関係を中村はそう話す。
村の気候や風土、暮らしは熟知。患者のほとんどは顔なじみで、家族やご近所の顔も頭に浮かぶ。だからこそ、「人を診る」ことが出来るのである。
症状や痛みを抑えることがすべてという治療ではなく、患者一人一人がいきいきと過ごすためには何が必要かを考える。膝痛に悩まされながらも、グランドゴルフが生きがいのお年寄り。安静を言い渡すより、痛み止めを打ちながら、趣味を続けさせる方を選択する。患者のしこう、趣味、生活、そして人生そのものを知り、共感しているから出来る診断があるのだ。
中村は自らを「名田庄の専門医」だという。地域のこと、そして患者一人一人のバックグラウンドを頭に詰めこみ、患者の人生に寄り添い続けて17年。今では、患者たちが、こう口をそろえる。「中村先生以外は、考えられません」