スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第105回 2009年1月6日放送

腕一本、それが男の生きる道 へら絞り職人・松井 三都男


金属と、会話する

国産ロケットH2A、半導体の製造装置、大型旅客機など、最先端の技術を支える金属部品。へら絞り職人松井三都男は、40年間その製造に関わり続けてきた。
松井が専門とする「へら絞り」は、へらと呼ばれる棒一本で金属板を型に沿わせて成形する技術。扱う金属の種類は20種類を越える。伸び方や硬さは金属の種類によって違うだけではなく、そのメーカーによっても異なるため、金属の性質を見抜く力が要求される。
工場に持ち込まれる仕事を、松井は五感を総動員して乗り越えていく。目で金属の表面に出来た波紋を読み、耳でへらとの摩擦音を聞く。そしてへらから伝わる振動で、金属がどれだけ型に密着したかを計算する。
松井の技術は業界でも指折り。わずか100分の3ミリの誤差という機械では困難な精度を実現する。

写真金属を見つめる松井


逃げない

松井が勤める町工場には、大量生産の工場では対応できない新素材の加工など、難しい仕事が持ち込まれる。11月、海外から輸入された希少金属の加工が依頼された。
しかし、突然のトラブルが発生。急きょ、製造期間が大幅に短縮された。通常のへら絞りでは、納期に間に合わせるのは困難だ。松井は金属を見つめ、すぐさま決断を下した。ふだんは使わない新たな手法に踏み切った。見事納期より一日早く仕上げてみせた。
松井はこれまでどんなに難しい仕事であっても、「できない」といって逃げたことはないという。難しい仕事をこなしてこそ、職人の腕は上がり、ひいては町工場のレベルを上げることにもつながっていくと松井は考える。

写真難しい加工に挑む松井


満足したら、職人は終わり

松井は現在61歳。定年退職後も、その腕を頼られて工場に残っている。
松井に託された大事な仕事のひとつが、後を継ぐ職人の育成。期待をよせる若手の絞り職人がいた。
11月、その職人に難しい仕事が割り振られた。松井は遠くからその様子を見つめる。試行錯誤を繰り返し、出荷できるレベルの製品をつくりあげた若手職人。しかし、安心したその顔を見た松井は、突然あるへらを握ってその職人を呼んだ。目の前で若手の職人が使ったことのないへらを使い、まったく同じ製品をつくり始めた。
腕でしか伝えられないことがあった。「満足したら職人はおわり」。常に技術を向上させなければ、腕はさびつき職人は必要とされなくなる。松井は最高の仕事を見せつけることで何よりも大切なその精神を伝えた。

写真若手職人を指導する松井


プロフェッショナルとは…

挑戦し続ける、いつまでも逃げないで挑戦し続けるということですよね。逃げちゃえばそこで終わりになっちゃいますので、挑戦があるのみだと思います。

松井 三都男

The Professional’s Tools

実演 「へら絞りの技~研ぎ澄まされた五感~」

一枚の金属板から、ポットをつくり出す。作業時間は3分足らず。松井は、よどみなくへらを移動させて金属を成型していく。わずかな時間の作業は、長年の経験をもとにした緻密(ちみつ)な計算に裏付けされている。松井は、金属はつくられてから時間がたつとわずかに硬くなっていくという。金属はいわば「生もの」。毎日毎日その金属の状態を見極めなければ、すぐに失敗する。「楽しい反面、怖い」という松井。日々金属との真剣勝負だ。

写真


関連情報


Blog