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これまでの放送

第100回 2008年10月14日放送

笑いの奥に、人生がある 落語家・柳家小三治


笑わせるのではない、笑ってしまうのが芸

落語家は人を笑わせる職業。しかし、小三治は無理やり人を笑わせようとするのは、本物の芸ではないと考えている。
小三治は、かつて師匠の五代目小さんから、お前の噺(はなし)は面白くないと言われ、深く悩んだ。
落語の面白さとは何かを追い求めている中で、伝説の名人、古今亭志ん生の言葉を聞く。
その言葉は「落語を面白くしようとするには、面白くしようとしないことだ。」
落語自体が持っている面白さを素直に演じることで、無理やりうけようとしない。小三治はそれ以来、本物の芸を突き詰めている。

写真小三治は奇をてらわない。素直に淡々と演じる


人生すべてが落語に出る

小三治は20年、重度のリウマチを患ってきた。激痛を鎮めるため、小三治は大量の薬を服用している。その薬は免疫を下げる作用があるため、風邪をこじらせても命に関わる。さらに68歳という年齢により体力も落ちてきた。
しかし、老いによる衰えも、重い病も、それも自らの人生経験だと小三治は語る。そしてその経験によって落語も変わってきたと感じている。
落語家になって50年、酸いも甘いもさまざまな人生経験を積んできた小三治の落語は、今なお、日々変化している。

写真持病のリウマチのため、毎日大量の薬を服用する


小さく小さく

小三治ほどの名人でも、時に観客の期待に押しつぶされそうになることがある。
毎年恒例となっている池袋の8月寄席。今年の猛暑の中も会場には、毎日長蛇の列ができていた。観客の期待をひしひしと感じると、「この人たちを何とか喜ばせたい、笑わせたい」という思いが頭をもたげてしまいがちになる。
しかし、うけようという気持ちは、「笑わせない芸」を目指す小三治にとって邪魔になる。
心が揺れる時、小三治は「小さく小さく」と自らにつぶやく。
芸が大げさに、派手にならないように。芸から無駄をそぎ落とすように、小三治は常に自らの気持ちと戦っている。

写真自らの心を引き締めるため、ピンチの時に、この言葉をつぶやく


プロフェッショナルとは…

今までたくさん見せていただいたプロフェッショナルの番組を思い出すときに感じるのは周りから見るとすごいなあ!立派だなあ!プロフェッショナルだなあ!と思うんです。だけど本人はそんなことは思ってないと思います。そんなことより、今のことで夢中だと思います。それがプロフェッショナルじゃないかな。

柳家小三治

The Professional’s Tools

黒紋付き

小三治は高座に上がるとき、ほぼ毎回、黒紋付きを身にまとう。共演者もセットもなく一人で演じる落語では、声色や表情で人物を演じ分けるが、それぞれの登場人物を客に想像してもらわなければならない。
小三治は、変わった色の着物を着る事は客の想像力を邪魔してしまうと考えている。
短い髪型も、客が侍の髪型でも、おかみさんの髪型でも想像しやすくするため。
すべては高座のために計算しつくされている。

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手ぬぐいと扇子

手ぬぐいは、毎年作るオリジナル。扇子は真打襲名披露のものを多くもつ小三治。
折り方も名前の部分をあえて内側に隠し、ちらりと柄が見えるよう配慮されている。
落語の小道具は、この二つ。手ぬぐいはたばこ入れや財布。扇子は、時におはし、時に刀、さらにはキセルなどさまざまなものに使うよう長い伝統の中で研究されてきた。
たばこを吸う演技では、てぬぐいの中でたばこの葉っぱをキセルに詰める演技があるが、その手元は観客には見えない。例え観客には見えなくても、細部まで徹底して演じるのが、伝統の技だ。

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