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第90回 2008年6月17日放送

一葉入魂、本分を尽くす 茶師・前田文男


お茶の声に、耳をすます

4月に始まる新茶シーズン、前田の朝は早い。午前3時、起床。水を一杯だけ飲み、朝食は食べない。午前4時前から「あっせん屋」と呼ばれる仲介業者や茶市場を回り、仕入れるべき茶葉を吟味する。目、手、鼻。五感を研ぎ澄まし、お茶と向き合うとき、前田の集中力は極限に達する。「一瞬なんですよね。かいだ時ピュッて何かが横切ったような感じがする。お茶が何かを訴えてる、そんな感覚なんですよね。」達人の見ている世界は深い。

写真新茶の葉は収穫された日や場所によって、まったく異なる個性を持つ。それを見極め、力を引き出すのが茶師の仕事。


良いお茶ではなく 伸びるお茶

前田のお茶の見方は、ひと味違う。ある日の茶市場で、前田は一つのお茶に目をとめた。高知県の山奥のお茶。さわやかな香りを持つが、葉の形が悪く、皆に敬遠されていた。しかし、前田は迷わず買うことを決めた。茶葉の中に眠っている力を見抜いていた。「お茶自体の性格はいい。いいお茶になる。」前田は、仕入れの段階では、お茶の良し悪しだけにこだわらない。手をかけ、磨き抜いた時にどれだけ伸びるか。それを見ている。前田の茶作りは子育てと同じ。自分で買ったお茶は絶対にけなさない。必ず良くなると信じている。

写真伝統の技を駆使し、丁寧にお茶の良さを引き出していく前田。


チームワーク

前田は、手塩にかけて磨いた茶葉に最後の仕上げをほどこす。「合組(ごうぐみ)」と呼ばれるブレンドだ。お茶は通常、一種類の茶葉だけで作られるわけではない。「香甘苦渋」が調和した奥深い味わいは、何種類もの茶葉をブレンドすることで生み出される。絶妙な配合が醸し出す極上の味と香り。合組の極意を前田はこう表現する。「欠点もあれば長所もある。その長所を引き出してやることによって、一つのいいチームができる。相手を引き立たせるようなブレンドが理想。」一つで全てを備えた完全無欠なお茶などない。

写真茶師の真髄「合組」。前田の腕の見せどころだ。


プロフェッショナルとは…

自分の中にある弱い自分に負けない、強い心を持ち続けることですね。そんな中でも、おごることなく謙虚な気持ちを忘れず、常に努力をし続ける、そんな人がプロフェッショナルじゃないかなと思いますね。

前田文男

The Professional’s Tools

実演「合組」茶師の技

女性的な香りと甘みのお茶。男らしい苦みと渋みのお茶。水色(すいしょく)が美しくコクのあるお茶。特徴ある3種類の茶葉を合組することで味わいはどう変わるのか。年季の入った道具を使い、手つきも鮮やかに匠(たくみ)の技を披露する。

写真配合の妙が生み出す極上の味と香りを堪能


直伝おいしいお茶のいれ方

新茶の味と香りを楽しむには、いれ方も大事。前田が薦めるお湯の温度はおよそ70℃。沸かした湯を一旦湯飲みに入れて湯冷ましをする。湯飲みを手で持ったとき、熱いなと思っても我慢できる程度が70℃だという。1分ほど蒸らして、人数分の湯飲みに少しずつ均等に注ぎ分ける。最後の一滴まで注ぎきることが大切。

写真急須と湯飲みさえあれば、特別な道具は必要ない。待つ時間、いれる時間も楽しむ


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