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これまでの放送

第75回 2008年1月15日放送

妥協なき日々に、美は宿る 歌舞伎役者・坂東玉三郎


夢の世界へいざなう

玉三郎の細部へのこだわりは歌舞伎界でも有名だ。
例えば化粧。天女の役を演じる時、耳にほんのわずかな赤みを入れた。凝視しなければわからない微妙な違いだが、男が女を演じる「女形」という世界では、観客はわずかなほころびやミスを感じてしまうと玉三郎は考える。そのわずかな違和感で観客が舞台に没入できなくなるのが嫌だという。
どこまでも完璧を目指す。常に観客と生で向き合ってきた玉三郎のこだわりだ。

写真天女の化粧では、耳にわずかな赤みが入っている


遠くを見ない。明日だけを見る

玉三郎は、未来の目標を立てない。明日の舞台のために力のすべてを尽くす。
それは、玉三郎がいつ踊れなくなるかという不安と戦ってきたからだ。幼い時から病弱だった玉三郎は、自分の体が舞の激しい動きや重い衣装に耐えられなくなるかもしれないという危機感を常に心において生きてきた。体のケアはほぼ毎日、公演中は声の調子を保つため友人との電話も控える。一日一日を明日の舞台のためにささげる生活を続けてきた。
初舞台から50年。玉三郎は、今もその流儀とともに舞台に立ち続ける。

写真明日の舞台のための体のケアは、ほぼ毎日行われる


あえて、心を冷ます

昨年11月、玉三郎は新作の稽古(けいこ)に打ち込んでいた。能を題材にした演目だ。
出演する俳優たちは日々本番の舞台に出演しながら、慣れない能の動きを身につけなければならない。初日が迫っても完璧にはそろわなかった。
本番前日、通常は全てを本番通りに準備して行う舞台稽古で、玉三郎はあえて化粧をせずに稽古を行うよう指示を出した。本番前日の高ぶりの中では見つけられない問題点を洗い出す事で、完璧を期す作戦だ。時に稽古の流れを止め、玉三郎は時間ギリギリまで修正を加える。

写真舞台稽古に素顔で臨んだ玉三郎は、冷静な心で問題点を次々に見つけ出した


プロフェッショナルとは…

どんな状態でもこれだけのものをお客さまに提供できるということのある種の線をきちっと保てるということじゃないかと思いますね。

坂東 玉三郎

The Professional’s Tools

岡持ち(おか持ち)

舞台袖で弟子が持ち歩く「岡持ち」には、舞台直前に必要となるさまざまな道具が入れられている。化粧直しの道具や清めの塩、そしてのどをしめらす水など透き間無く埋められている。
岡持ちの底の部分には、台詞(せりふ)を忘れた時に、すぐに見かえす事ができるよう、台本を入れる専用のスペースまで設けられている。

写真


台本

玉三郎が実際に使った「牡丹灯籠」(ぼたんどうろう)の台本。
自分の台詞に赤線と通し番号がつけられている。通し番号を振ることで演目全体がどんな構造を持っているか、どこが難しいか、などが瞬時に頭の中で整理される。

写真


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