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第57回 2007年7月10日放送

人事を尽くして、鬼になる 鬼師・美濃邉 恵一


“鬼”の歴史をつなぐ

鬼瓦は、飛鳥時代に大陸から伝わり、次第に「建物の守り神」として盛んに作られるようになった。しかし屋根の上で雨風にさらされる鬼瓦は、歳月を経ると、ひび割れ、朽ちる。そのため数百年ごとに、新たなものに作り直される必要がある。
 例えば、美濃邉の代表作、清水寺・経堂の鬼瓦(国の重要文化財)は、もともとは江戸時代初期・寛永年間に作られたもの。全部で18の鬼瓦が屋根に上がっていたが、そのうち壊れてしまった1つを、美濃邉が平成に入ってから作り直した。
 いにしえの鬼瓦を引き継ぎ、未来へとつなぐ、それが鬼師の仕事だ。

写真清水寺・経堂の鬼瓦(国の重要文化財)


魂を写し取る

現代の鬼師に求められるのは、まずもとの鬼瓦を忠実に再現することだ。しかし、ただ形を写し取るだけではない。もっとも大切にしているのは、「魂を写し取る」こと。
製作中に、美濃邉が不思議な動きをし始めた。古い瓦(かわら)を、なぞるように触っては作業を続ける。理由を尋ねると、「触ってみると、手を通して、どんな職人がどんな思いでその鬼瓦を作ったのかがわかる」とのこと。
職人の気質にまで思いを巡らせ、それを復活させる。それが美濃邉の信念だ。

写真手で触りながら作る


鬼と、なる

鬼師・美濃邉の正念場は、鬼瓦を焼く「窯焚き(かまたき)」。30数時間、ぶっ続けで炎と向き合う過酷な作業だ。

徐々に窯の温度を上げていき、最終的には1095度にする。理想の鬼瓦を作るために、この温度を一定に保つことを目指す。
美濃邉は、窯(かま)の脇の通風口に砕いたレンガを置いたり、外したりする。微妙に空気の流れを変えることで、火のまわりを操り、窯(かま)の温度を調節する。わずかな温度の変化も許されない、ギリギリのしのぎ合いだ。
「後日、僕が作った鬼瓦を、他の鬼師が作り直す時に、これに負けないような仕事をしようという気持ちにさせたい」と語る美濃邉。その思いが、美濃邉を「鬼」にさせる。

写真通風口に砕いたレンガを置く


プロフェッショナルとは…

今までの経験したことをもとにして、仕事に魂を込めて最善の努力をする人かなと思いますけれども。

美濃邉(みのべ) 惠一

The Professional’s Tools

ヘラ

美濃邉が鬼瓦を作る際に使うのは、ヘラ。竹製のもの、金属製のもの、大小さまざま50種類以上ある。
中でも目を引くのは、柔らかくしなる金属製のヘラ。時計のゼンマイを再利用して美濃邉自身が作ったものだ。粘土の表面を磨き、引き締めることで、耐久性と光沢を高める仕上げの作業に使うのだという。凹凸が激しく、複雑な形をした鬼の顔では、柔らかくしなるこのヘラが活躍する。

写真


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