スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第56回 2007年7月3日放送

365日24時間、医者であれ 外科医・幕内雅敏


自分が最後の砦(とりで)

がん治療の世界的権威として知られる外科医、幕内雅敏(60)。幕内の専門は、血管が複雑に入り組み最も手術が難しい臓器の一つ、肝臓。他の病院では手の施しようがないと言われたがん患者が多く、幕内のもとに集まる。外来で患者を前にした時、幕内の胸の内には、一つの言葉がある。「自分が最後の砦」。画像を丹念みて、あらゆる手術の可能性を探り続ける。少しでも治療の可能性があれば、患者とともに病と立ち向かう。

写真他では難しいと言われた患者と向き合う幕内


365日24時間 医者

 外科医、幕内を支えるのは、圧倒的な勉強量だ。幕内は、30年以上に渡り詳細な手術の記録を残している。それを見直すことで腕を磨き続けてきた。長時間にわたる手術後も最新の論文に目を通し、勉強を怠らない。「医学は日進月歩。学び続けることが、明日の患者を救うことになる」
 幕内は、60才。それでも年間200をこえる手術に挑む。週末も休まない。それは、外科医の道に進んで以来、貫いてきた流儀があるからだ。「365日24時間医者」
「宿命です。365日ビシッと診ていけば人間は非常に強くて元気になる。患者さんが助かるために仕事をしている訳でその他のものではありませんからね」

写真手術記録をみる幕内


学ぶことでしか人の命は救えない

大学を卒業し、肝臓外科の道に進んだ幕内。当時、手術の成功率が極めて低かった肝臓がんの分野を極めたいと、手術に明け暮れ、最先端の治療法を学んだ。さらに自分でも次々と新たな手術方法を考え出し、肝臓がんの手術の成功率をあげた。
幕内は、思った。「どんな手術でもやってみせる」
そんなある日、誰も手を出せずにいた難しい肝臓がんの手術を引き受けた。しかし失敗。患者さんは、他の医師が割って入り辛うじて一命をとりとめた。
初めて、手術の怖さを知った幕内。そこから壮絶な努力が始まった。「学び続けることでしか、人の命は救えない。365日24時間医者であれ」幕内の信念となった。

写真若い時の苦い手術の経験が医師としての信念を生んだ


命を救い続けてこそ、医者

今年4月。 幕内の元に難しい手術の依頼がきた。腫瘍(しゅよう)が肝臓全体に広がっていた。その数70。
幕内でも、これほどの数の腫瘍を一度にとる手術は経験がなかった。
手術は、幕内自身の限界との闘いとなる。
それでも過酷な手術に挑むのは、「命を救い続けてこそ、医者」と幕内は考えるからだ。
幕内は、信念を胸に、壮絶な手術に臨んだ…

写真前例のない大手術に挑む幕内


プロフェッショナルとは…

常に細心の注意を払って仕事をして、経験から得た教訓を忘れないで、そして常に新しい工夫(くふう)をするということを怠らない。最終的には、やはり人事を尽くして天命を待つという心境が開けているということではないでしょうか。

幕内雅敏

The Professional’s Tools

手術室で聞く演歌のCD

幕内の手術道具のなかで欠かせないものに、手術室で集中力を高めるためにかける演歌のCDがある。石川さゆり、森昌子、八代亜紀。かける順番も決まっている。
静かで悲しい、ひたすら堪える、そういう歌詞が「堪えざるをえない」手術にあうという。
「外科医という仕事は、豪快なものではなく、丁寧に重箱のすみをはくようなもの」

写真


糸縛り

肝臓の手術は、出血との闘い。細かい血管を1本1本縛りながら、切り進む。
そのために欠かせない指さばきに、ごく細い糸を、早く、丁寧に正確に縛る、糸縛りがある。外科医には、この鍛錬が欠かせない。
「糸が縛れない外科医は使いものにならないですからね」

写真


関連情報


Blog