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第47回 2007年4月10日放送

“負ける”ことから独創が生まれる 建築家・隈研吾


“負ける”建築

独創的であると同時に、社会に受け入れられる建築を作るため、隈はある流儀を貫き通している。それが“負ける”建築。
“負ける”建築とは、自己主張するのではなく、周囲の環境に溶け込むような建物を建てること。さらには、予算や敷地などの「制約」を逆手にとって独創的な建物を生み出すことを指す。
例えば、栃木の山あいの美術館では、周囲の風景と調和させるため、地元の間伐材の格子を多用。そこから、裏の里山と溶けあった、美しい建築を生み出した。
また、石材会社から依頼された美術館では、予算に制約があった。そこで石材会社自らが手仕事で作る建物を考案。石を積み上げて建てる個性的な建築を作り上げた。

写真間伐材の格子を多用した美術館


スタジオで、キャスターの茂木に「予算や敷地に制約がなかったらどうしますか?」と尋ねられた隈は、こう答えた。
「制約がなかったら制約を探しに行くな。(中略)まさに宝ですよ、制約は。」

写真石材会社自らが手作りした美術館


発想の“根”は譲らない

建築を進める中で、隈が大切にしているのが、最初のコンセプトを貫き通すこと。さまざまな制約の中で、素材や形を変える必要があったとしても、発想の“根”は譲らない。

それが顕著に表れたのが、中国・北京で進む再開発プロジェクト。
1月、隈は、中核施設のホテルにある吹き抜け空間について、ある設計プランを作ったが、依頼者から却下された。大量のアクリルの棒を吹き抜け空間につるすという斬新(ざんしん)なプランだったが、依頼者は、吹き抜け空間にものをつるすと、維持管理に手間がかかると難色を示した。
隈は、大幅変更を加えたプランを提示した。新プランは、天井から幕を垂らしたような形。相手の意見を受け入れ、素材をアクリルから維持管理が簡単なステンレスに変更した。しかし一方で、隈が一番大切にしてた「ものをつるす」というコンセプトは貫き通していた。
果たして、依頼者は、隈の提案を大筋で受け入れた。

写真写真吹き抜けにステンレスの幕をつるした新プラン


建築家という、覚悟

これまで、数々の挑戦的なプロジェクトを手がけてきた隈は、プランが斬新であればあるほど、依頼者が不安を抱えることを経験的に知っている。どんな建物ができあがるのか、それは建築家の頭の中にしかなく、依頼者はどんなものができあがるのかはわからない。「最後にできあがった時には、絶対喜ばしてやるぞっていうつもりでやっている」と静かに語る隈。
人生を背負って頼んでくる依頼者に、任せてくれと覚悟を持って言い切る。それが建築家の仕事だ。

写真


プロフェッショナルとは…

同じことを2度しない人。一期一会の、1回だけの出会いがすごく価値がある時代だと思うんですね。プロもそういう一期一会の出会いを、ちゃんと形にできるような同じことを繰り返さない人。それがプロじゃないかと思うんですね。

隈研吾

The Professional’s Tools

小型の手帳

ふだん、パソコンを使わない隈は、通勤や外出の際に、かばんさえ持ち歩かない。「自分の体以外のものは、なるべく身軽にしようと思っている」と語る隈が、身につけているのは、手のひら大のコンパクトな手帳一つ。
中には、予定がびっしり。だが、書きなぐってあるためかなり読みにくい。隈いわく、「自分でもあれこれなんだっけなと思うこともときどきありますね」

終わった予定は、ペンで塗りつぶして消す。それが、ストレス解消になっている。

写真写真今年の手帳は表紙がキラキラのウロコ状 手帳は毎年変えている


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