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これまでの放送

第37回 2007年1月11日放送

どん底の会社よ、よみがえれ 弁護士 村松謙一


会社の救済=人生の救済

 村松は、悪徳な会社でない限り、倒産を全力で阻止する。それはなぜか?弱い会社は倒産しても仕方がないのではないか?その問いに、村松はこう答える。
「倒産は確かに自己責任かも知れない。だが、その陰で何千もの人の命が失われている。
弁護士として、その事実を見過ごすわけにはいかない。」
今、日本の中小企業のほとんどが、会社の運転資金を金融機関からの借り入れに頼っている。会社の経営が行き詰まったとき、自宅などの生活基盤を失い、自らの命を絶つ経営者が今も後をたたない。
村松は弁護士として、金が命を奪う悲しい連鎖を断ち切りたいと考えている。

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失敗を見つめろ

 村松の元には、毎日ひっきりなしに相談者が訪れる。村松が第一に考えるのは、経営者の保護だ。会社を再建したいという気力が残っているか、命を絶つ恐れはないか?まずは、悩みを丹念に聞き、不安を和らげる。だが優しさだけでは、倒産から会社を救うことはできない。経営者の不安を取り除いた後、徹底して失敗の原因を探り、経営者に同じ過ちを繰り返さぬよう、たたき込む。失敗を正面から見つめさせ、その上で、経営再建のための合理化プランを一緒に実行していく。

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窮地を救うのは正直

 瀕(ひん)死の会社の再建は、経営改善の努力だけでは済まないことが多い。金融機関への負債が膨れあがり、金利の支払いが本業を圧迫するケースが多いからだ。そんな時、村松は、銀行に負債減額の申し入れを行う。その額は時に数億にも及ぶ。もちろん、交渉は容易ではない。書類を受け取ってもらえないことすら少なくない。
交渉に臨む村松の武器は、たった一つ。それは「正直」であることだ。はったりや手練手管では、交渉は乗り切れない。正直な数字を示して頭を下げ、何度でも足を運ぶこと。誠意を見せることでしか、相手は交渉の土俵に乗ってはくれない。
村松は言う。「正直を貫き続ければ、時間はかかっても、相手の心情は必ず変わる。
どんな人間も、最後まで聞く耳を持たぬほど非情ではない。」
修羅場を歩き続けてきた村松の確信だ。

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過去じゃない、未来を語る

 これまでの経営の失敗に対する怒りを「情」で鎮め、相手が交渉の土俵に乗れば、村松は徹底して、相手の「利」を説き始める。
ここからの交渉で重要なのは、「過去」を語らず、「未来」を語ることだ。過去の失敗をいくら弁明しても、相手の心は決して動かない。情だけでは人は動かないのだ。だから村松は、未来の利を徹底的に説く。取引先には、「今後も安定的に取引を続けられる」ことの意味を説く。そして金融機関には、「今すぐ会社を破産に追い込み、資産を売却するよりも、はるかに回収額が多くなる」ことを具体的な数字を挙げて説明する。
「情」と「利」の二面作戦、これが村松の交渉術だ。

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プロフェッショナルとは…

私どもに頼ってきた方々、困りきって頼ってきた方々を見捨てない。護りきる。なんとしてでも護りきるというその強い使命感、これが一番私は大事な部分だと思っています。

村松謙一

The Professional’s Tools

カバン

村松は、どこに行くにも黒革のカバンを手放さない。厚さ10cm、驚くほど重い。名案を思いついたらすぐに再建策を起案するため、関係書類をまとめて持ち歩くからだ。
そんな書類に交って、村松が必ず持ち歩く、2つの透明ファイルがある。
一つは、ある社長の遺書。かつて依頼を受け、その会社の再建を試みたが、社長はその途上で自ら命を絶った。村松が経験したうちでも、最もつらい失敗の一つだ。この苦い記憶を刻み込むため、村松はこの遺書をずっと持ち歩いている。
そしてもう一つのファイルには、長女・麻衣さんの作文が入っている。麻衣さんは9年前、15歳の若さで亡くなった。その死の直前に記した最後の作文は、「積極的に人に出会い、愛を分けてあげられたらと思います」と締めくくられている。人の命の重みをかみしめながら、村松は倒産と戦っている。

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