洗車してる場合じゃないだろ・・・。
2006年12月5日 ディレクター:テラオカ

タジキスタンで国連機関ユニセフの取材をしましたテラオカと申します。
初めての海外取材で、タジキスタンというそれまでまったく知らなかった国に行ってきました。番組のモットー「倒れる時は前のめり」を胸に、気合い十分! しかしかの地には、いささか変わったルールがあり困惑すること数知れず。その一つをご紹介いたしましょう。
それは、杢尾さんの取材の合間に、タジキスタンの景色を撮りに郊外に行った帰り道。次の撮影時間が迫り、スタッフ一同に少し焦りの色が見え始めた時に起き ました。運転手が突然、「これから洗車をしに行きます」と言い出しました。いやいやご冗談を、撮影に間に合わなくなってしまいますよ、と笑いながら返した 私。しかし彼の顔は笑っていません。「汚れた車で町なかに入ると罰金を科せられます。これは法律なんです。」とおっしゃる運転手さん。でも、町の中には汚 い車はたくさんあるではないか、と食い下がる私。そう、町の中には30年はゆうに使っていそうな車がたくさん走っているではないですか。しかし運転手、 「あれはただ古いだけ。汚れた車は罰金です。」と厳格にルールを主張します。
「急いでくれ~~」というスタッフの悲痛な叫び。
「しかたないなぁ」という顔をした運転手が向かったのは、すぐ近くにあったレストランの駐車場でした。そこの入り口にたむろしていた子どもに声をかける運 転手。すると、バケツとぞうきんがどこからともなく出てきました。子どもたちは、駐車場の番をしながら、洗車を請け負うことでチップを稼いでいました。ム ムム、へんてこな法律とそれによって稼ぐ子どもたち。「車をきれいにするより、他にやることがあるんじゃないか?」と運転手に問いかけたものの、昔からそ ういうものだとのお答え。彼らの「常識」の前に、我らクルーの主張は、虫けらのごとく隅に追いやられてしまいます。
たまたま杢尾さんの側のスケジュールがずれ、次の取材には間に合い、事なきを得ましたが、ことほどさように、こうした、現地の人にとっての「常識」と日々格闘するということは、簡単なことではありません。

後日、この話を杢尾さんに話したところ、「地元の人が当たり前だと思っていることを変えるのが一番難しいのよねぇ。」とのお答え。杢尾さんの仕事の難しさが肌感覚として少し分かるような気がしたスタッフ一同でした。

杢尾さんのタジキスタンでの仕事は、すでに6年目を迎えています。これは、国際機関ユニセフの職員としては、異例のこと。通常、タジキスタンのように生活するのが困難な地域での勤務は、3年と決まっています。そこを杢尾さんは、自らのたっての希望で延長し続けています。
理由を尋ねると、「中途半端なまま離れられないでしょう。」ときっぱり。組織の「常識」に流されない、強い信念と責任感を感じました。