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これまでの放送

第33回 2006年11月16日放送

ゴールにいるのは、新しい自分 陸上コーチ・高野進


選手に乗り移る

 「選手に乗り移ることができたら、いい指導ができている」と、語る高野。「乗り移る」とは、その選手になって走っていることをイメージしながら、修正点を見つけるということ。手の振り方、呼吸の仕方・・選手の走り方は、ひとりひとり違う。選手の個性を大事にしながら、自らの豊富な経験をもって、基本と外れた個所を判断し、アドバイスしていく。
 しかし高野は、そのポイントを選手に手取り足取り教えることはしない。走り終えた選手には、短い言葉で要点だけを伝える。大事にしているのは、選手が自分で考えること。短距離走はアートと同じく、それぞれの感覚が重要視される世界。高野は、選手たちにヒントだけを与え、自らの感覚で答えを探し出させる。

写真時には自分の体で試し、実感をつかむ


10年先に花を咲かせる

 短距離走選手が集大成を迎えるのは、30歳前後だと高野は考える。大学入学からおよそ10年というその長い期間を、高野は選手の好不調の波に寄り添いながら、それぞれの目標までともに歩み続ける。
 中には、不調から抜けられない選手もいる。そんな時、高野は特に慰めたり、鼓舞したりすることはない。ただ、選手の言葉に耳を傾け、共にいることを伝える。高野は、選手とコーチの関係を親子になぞる。子供が独り立ちをし始めたあとは、細かいことを言ってはいけない。しかし子供が相談したい時には常にそばにいる、そんなかけがえのない存在でありたいと願い、辛抱強く選手たちを見守り続ける。

写真選手たちの走りから、決して目を離さない


ゴールの向こうには 新しい自分が待っている

 92年バルセロナオリンピック・400m走ファイナリストとして、孤高のアスリートと呼ばれた高野。その経験と実績から、試合前の選手たちに熱く語る言葉がある。それは、スタートラインに立つときは、今までの自分に別れを告げるつもりで臨むこと。
 競技を続ける中で、長期間モチベーションを維持するためには、どんなにわずかでも成長している自分を見つけ続けることだ。ひとつひとつの試合を走り切る中で、新しい走りへの発見や感動を見つけてほしいと高野は考えている。
 この秋のシーズン、高野が期待をかける新人アスリートがいる。若いこの時期に精神的な土台をつくらせたいと高野は考え、1か月に5つの大会を連戦させることを決めた。その中で、いかに自分の壁を乗り越えることができるか。新しい自分に出会うため、若者の挑戦が始まる。

写真必要なのは、人間としての器だと選手に語る


プロフェッショナルとは…

最終的にプロフェッショナルという人は、逃れられない使命感をもちつつ、とめどもないやはりビジョンと希望をもっている人たちじゃないかなと思うのですね。

高野 進

The Professional’s Tools

高野流 走り方の基本

高野が末續とともに編み出した常識破りの走法。その根幹となる考えは、効率的に力を使うことだ。まず、バランスをしっかりととった姿勢をつくり、そこから体を前に傾けることで自然に足を出していく。その足に重心をのせながら前に進むことで、地面からの反発力を利用し、無駄なエネルギーを使わずに走ることができる。
「ボーンボーンと跳ねるのではなく、忍者のようにピターっと走る。下り坂を走っていくように」。

写真正しい走り方のためには、まず正しい姿勢をつくるが重要


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