「選手に乗り移ることができたら、いい指導ができている」と、語る高野。「乗り移る」とは、その選手になって走っていることをイメージしながら、修正点を見つけるということ。手の振り方、呼吸の仕方・・選手の走り方は、ひとりひとり違う。選手の個性を大事にしながら、自らの豊富な経験をもって、基本と外れた個所を判断し、アドバイスしていく。
しかし高野は、そのポイントを選手に手取り足取り教えることはしない。走り終えた選手には、短い言葉で要点だけを伝える。大事にしているのは、選手が自分で考えること。短距離走はアートと同じく、それぞれの感覚が重要視される世界。高野は、選手たちにヒントだけを与え、自らの感覚で答えを探し出させる。