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これまでの放送

第31回 2006年11月2日放送

冷静に、心を燃やす 海上保安官・寺門嘉之


限界を身体に刻み込む

 特殊救難隊が出動するのは、一般の海上保安官では対応できない特殊な海難現場。そのため寺門たちは、いかなる現場でも最大限の能力が発揮できるように、日々過酷な訓練を繰り返している。
 この日は、江ノ島沖での深深度訓練。水深35メートル地点で、ロープさばきなどの細かな作業に挑んだ。通常、水深30メートルを超えると、ボンベ内の窒素成分が体内に溶け出し、正常な意識を保てなくなる。いわゆる「窒素酔い」だ。そんな中、寺門たちはマスクを外し、あえて危険な状況に自らを追い込む。寺門は言う。
「自分の能力の限界が不明確だとそれを飛び越したり、あるいはできるのにあきらめたりというところがある。限界点は明確なほうがいい。そのため際どいところまで自分たちを追い込む必要はあると思います」。

写真極限の現場に立つには、強じんな肉体と精神力が必要。


経験を信じる

 8月下旬、和歌山・田辺沖でタンカーの火災事故が発生。寺門らに緊急出動の命令が下った。現場到着後、外から見る船に異常はなかった。しかし火元のポンプルームが、密閉されているため、船内の火が完全に消えているのかわからない。万一、火が残っていた場合、扉を開ければ空気が吹き込み、最悪、大爆発となる。寺門は、船に乗り込むと、ポンプルームの壁の温度や有害ガスの発生状況を調査。そして最後は、自分の経験から判断を下す。
「行けといわれから行くのではなくて、行けるという確信があるから行く。ただ、人として求められた仕事をやり遂げたいという気持ちはいつもありますので、無理することも多々あるかと思うんですけどね」という寺門。
準備を整え、扉を開けた。爆発は起こらなかった。

写真ポンプルームに進入。無事、安全を確認した。


冷静に、心を燃やす

 数々の修羅場を乗り越えてきた寺門には、ある信念がある。
「その時々に応じて士気を高めたり、あるいは隊員の勇気を奮い立たせたりするために、私自身は常に冷静でなければいけないと思う。そういった意味で、常に冷静ではあるんですが、心の中では人を助けるという正義感に満ちあふれている。燃えたぎる理念をしっかり持って救助活動に携わりたいというのが、その言葉の意味ですね」(寺門)

写真巡視艇への降下。


プロフェッショナルとは…

自分がプロであるという自覚を持ち、そしてその自覚だけではなくて、プロであり続けるための努力をし、結果を求められる仕事に対してきちんと責任を背負っていける、それがプロだというふうに思います。

寺門嘉之

The Professional’s Tools

お守り

ユニフォームの左胸のポケットに入っている「お守り」。妻からもらい、この10年肌身離さず持っている。おかげで大きなけがもないという。中には妻からのメッセージが書かれた紙が入っているということだが・・・
「洗濯してしまってその文字も今見えるかどうかわかんないですが・・・」(寺門)

写真妻からもらったお守り


手帳

手帳に書かれてあったのは、船を曳(えい)航する時の抵抗力を割り出す計算式。
「船を引っ張るといっても、そのときの風の抵抗、船が動くことによって受ける波の抵抗など、おおよそわからないと、曳航する船の能力、引っ張るロープ類の強度を決められません」という寺門。
特殊救難隊には、強じんな肉体と共に、火災危険物や救急処置に関する知識など、高度な専門知識が要求される。

写真曳航抵抗算出の数式