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これまでの放送

第24回 2006年8月31日放送

一瞬の美にすべてを懸ける 花火師 野村陽一


5秒のための、1年

 花火は上空で開いてから燃え尽きるまで、わずか5秒。野村はその一瞬の美しさに、極限までこだわる。美しい形、鮮やかな色彩、そして消え際の潔さ。野村はそのために1年間、ひたすら地道な作業を繰り返す。その最たる例が、花火の色を出す「星」と呼ばれる火薬作りだ。一日0.5ミリずつていねいに火薬を塗りつけ、3か月かけて直径2センチほどに育てる。その間、野村は毎日欠かさず星の成長過程を入念にチェックし、大きさに不ぞろいがあれば、あっさりと捨てる。星の大きさが完璧にそろっていないと、花火の動きにばらつきが生じる。野村はそのことを、決して許さない。

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潔く、あれ

 野村は、花火の魅力を「潔い人生」のようなものだと言う。一切の未練を残さず、鮮やかに散った時にこそ、花火は見る者の心に永遠に焼き付くものとなる。その信念があるからこそ、地道な作業をひたすら繰り返す日々の中でも、一つ一つの工程に常に全力を尽くす事ができる。

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進化してこそ 職人

 野村は毎年、新しい花火の開発に挑む。数か月かけて作り上げた新作は、近くの河川敷で試し打ちされる。求めるのは、新しい色や題材、これまで以上に正確な動き。野村は決して安易に合格点をつけない。10発の新作のうち、1発でも合格点をつければ良い方だ。55歳になった今も、野村は去年の自分を超える花火を追い求め続けている。

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最後に求められるのは、心

 野村はこの夏、いまだ誰も成功させたことがない究極の花火「五重芯(しん)」に挑んだ。花火の輪の中に、さらに五重の同心円を描くという複雑な一発。圧倒的な技術力で、全国の競技大会を勝ち続けてきた野村だが、この「五重芯」は失敗を重ねてきた。野村は、自分が育ててきた弟子と「五重芯」作りを競い合うことで、集中力を研ぎ澄ませるという策に出た。理想の一発を生み出すため、最後に求められるのは、技術を超えた集中力、そして花火と向き合う素直な心だと野村は信じている。

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プロフェッショナルとは…

こだわってこだわってこだわり続けて、なお、結果が出るまで。技術という、原石みたいなものだと思うのですけども、それを磨き続ける人。

野村陽一

The Professional’s Tools

星

花火を構成する光の一粒一粒は、直径2センチほどの「星」と呼ばれる火薬が燃えることによって生まれる。紅や青などさまざまな色を出す火薬を、菜種や石膏(こう)などの小さなかけらに塗りつけて作る。1日に塗りつける火薬の層は、わずか0.5ミリ。塗り終わると、天日で完全に乾燥させる。この作業をひたすら繰り返し、星を次第に大きくしていく。野村は、星作りを「子育て」に例える。急いで大きくすると、粒が不ぞろいになったり、燃焼が悪くなったりで、美しい花火は生まれない。

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紅青牡丹

花火の色が変化する秘密も、星に隠されている。紅から青に変化する花火の場合、最初に青く燃える火薬を塗り、その上から紅の火薬を塗りつける。紅の火薬が燃え尽きた時点で、青の火薬に火がつくという仕組みだ。野村は色の変化をなめらかに見せるため、火薬の配合比を微妙に調節することで、紅→紫→青と、グラデーションをつける。職人のこだわりだ。

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