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これまでの放送

第23回 2006年8月24日放送

リスクをとらなきゃ、人生は退屈だ ベンチャー経営者 飯塚哲哉


朝令暮改

 飯塚の会社の壁には、大きな掛け軸が掲げられている。その文字は「朝令暮改」。半導体業界の厳しい競争を勝ち抜くために、飯塚が掲げている社訓だ。
 飯塚は、一度下した命令を、ちょくちょく変える。棚上げしていた案件を突然やると言い出したり、突然提携を決めたりすることは、日常茶飯事だ。「あんまり命令を変えると、社長の尊厳に関わるのでは?」という心配を、飯塚は一笑に付す。「ビジネスの世界は変化が非常に激しいのです。どことどこが提携したか、そんな情報一つで、業界の勢力地図が大きく変わる。戦略観も日々変わって当然。」
 ヒット商品を出した好業績の会社が、わずか数か月で倒産に追い込まれるという、厳しい競争の世界で、飯塚は何より「身軽さ」を重視する。

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どんな相手も切り捨てない

 たった85人で世界を相手に戦うために、飯塚が重視しているのが他の会社との提携戦略だ。飯塚たちはLSIの設計・企画に特化し、他に必要なものは、「持つ」のではなく「手を組む」ことで確保する。その幅は、互いに技術を持ち合っての共同開発から、エンジニアを含めた買収や合併、投資まで、多岐にわたる。生産を委託する工場も、提携で確保している。
 問題は、「いつ、誰と手を組むか」。経営者としての飯塚の手腕の見せ所だ。その時々、最も強い相手と手を組まなければ、リスクを背負うことになるからだ。
 最強のパートナーを選ぶため、飯塚は、日々どん欲に人に会う。飯塚は、どんな話でも、必ず交渉の席に着く。思わぬアイデアや情報を手にすることがあるからだ。
 もちろん、実際に提携が成立するのはごく一部。だが、飯塚は成立しなかった提携話でも、話を決して終わらせない。今後の提携を探りながら、交渉を続ける道を残す。
 いつ誰が必要になるか分からない。だから飯塚は、一度握った手を離さない。

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最後は人で決める

 どんな提携にも、リスクは常につきまとう。メリットとデメリットは常に表裏一体だ。提携するかどうかを決める時、飯塚は部下と意見を戦わせる。飯塚はメリットを主張する側、部下はデメリットを主張する側に立ち、リスクの大きさを見極めていく。
 だが、最後の結論を出すのは飯塚。その時、飯塚が何より重視するのは、交渉相手の人柄だ。飯塚は言う、「会社の名前は関係ない。いやむしろ、大企業と手を組む時ほど、責任者の人柄が大事。その人がどれだけの能力と熱意を持っているかで、提携がうまくいくかどうかは、ほとんど決まってしまう。」
 数々の交渉の中から、飯塚がつかみ取ってきた流儀は、例えばこんな具合だ。
・「甘い言葉を吐くやつは信用できない」、
・「金にこだわらないやつは本気でビジネスを考えていない」、
・「信じられるのは、自分にも相手にも厳しい人間」

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プロフェッショナルとは…

突き抜けて変化を見通せる力を持っていて、それだけでは十分でなくて、それをチームに翻訳して、チームの仕事に翻訳して、チームにブレークダウンして実行させることができるというところまでいって、我々の世界のプロと言える、と思います。

飯塚哲哉

The Professional’s Tools

電子手帳

飯塚は、スケジュール帳代わりの電子手帳をいつも持ち歩く。社長になった今でも、スケジュールの管理だけは、誰にも手を出させない。それは、大手メーカーの部長時代、苦い経験をしたからだ。秘書が次々に会議の予定を入れるため、1週間が会議で埋まってしまったのだ。「時間を自分の思うように使うのは基本的な人権でしょ。」それが飯塚の口癖だ。
 今、飯塚のスケジュールは、思いの外、空白が多い。何もしない空白の時間こそが、新しい事業を生むと、飯塚は言う。忙しい中でも空白の時間を確保するため、飯塚は自分のスケジュールを誰にも見せず、自分だけで決める。それを支えるのが、いつでも持ち歩ける秘密の電子手帳なのだ。

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