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これまでの放送

第18回 2006年6月22日放送

現場に出ろ、答えはそこにある ゲーム開発部長 植村比呂志


距離感をなくす

 CGデザイナー、プログラマー、音楽担当者など多様な職種のスタッフを束ね、新たなゲームの開発に当たる植村。日ごろ心がけているのが、スタッフとの“距離”をなくすこと。
そのため、植村は、じっと自分の席にじっと座っていることはない。オフィス内をぶらぶら歩き、ちょっとしたきっかけを見つけては、スタッフに声をかけていく。たわいのない雑談から、いつの間にかスタッフの輪に入り込み、仕事の進み具合や問題点をさりげなくつかんでいく。スタッフとのイメージのギャップを縮める機会を積み重ねることが、人をひきつける質の高いゲームにつながると植村は考えている。

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現場で、発想する

 激しい競争が繰り広げられるゲーム業界において、一歩先を行くために、植村が足を運ぶのが、子どもとふれあう現場だ。週末は、ショッピングセンターのゲームコーナーに出かける。ゲームの画面の進行に応じて、子どもがどんなリアクションを示すのかを見つめる。なぜ、ある場面にいらつくのか、小躍りするのか、一つ一つの反応が次回作のヒントになる。
さらに植村は、子どもを見つめるだけでなく、ゲームのイベントなどで自らステージに立ち、子どもを楽しませる側に回る。自分の演技に子どもが笑うのか、怖がるのか、無表情なのか、子どもの反応をじかに感じ、ゲームのキャラクターの動きやセリフに反映させていく。植村は自分だけでなく、普段オフィスでパソコンに向かう部下達も、積極的に現場に立たせている。
「答えは、僕らの頭の中にはない。現場からきっかけをもらって、ソフトウエアを作って、その結果をまた現場で教えてもらっている。その繰り返し」。地道な現場回りが、大ヒットを生みだす植村の原点だ。

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成功させて人を育てる

 ヒットを生み出すとともに、将来の開発を担う人材を育成するのも、開発部長である植村の大きな仕事。植村が大事にしているのが、部下に成功体験を積ませることだ。
そのために、時に部下に対して、あえて難しい仕事を与える。作業を進める過程で、部下が抱く悩みや不安と、成功したときの喜び、そのギャップが大きいほど、大きな自信となる。それが、さらに大きな仕事に挑戦する意欲につながり、部下の能力を伸ばしていくと植村は、考えている。

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追い込まれても 追い込まない

 しかし、部下に成功体験を積ませようとすることが、時に植村にとってはリスクとなる。仕事を任せた部下の作業が進まず、ゲームが一向に仕上がらないまま、リリース予定日が間近に迫ることもある。リリースが遅れ、売上げへの影響などが懸念されるような状況で、開発部長である植村には大きなプレッシャーがかかってくる。しかし、植村は、部下を決してせかしたり、追い込んだりしない。
その裏には、ゲームづくりにおいて、子どもと向き合うことを最も大事と考える植村の信念がある。過度のプレッシャーや焦りをなどを抱くことが、スタッフから子どもたちの繊細な気持ちをくみ取る余裕を失わせると考えている。
プレッシャーは、一人で抱え込み、ひたすら部下が自ら答えを見つけてくるのを待つ。それが、植村の人を育てる流儀だ。

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プロフェッショナルとは…

揺るがないビジョンを持っている人ですね。自分がぶれなければ、周りの人も安心して仕事ができる。それを示せる志、ビジョンを持っているかどうかじゃないんですか。

植村比呂志

The Professional’s Tools

巻き尺

植村の机にいつもおいてあるのが、巻き尺。ゲーム機の寸法を測るのに使う。子どもを楽しませるソフトウエアとともに、子どもが遊びやすい仕様のハードウエアがあってこそ、子どもに幅広く受け入れられるゲームとなると植村は考えている。

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携帯電話

子どもが遊ぶ現場での発見を制作に生かすために活用しているのが、携帯電話。週末、ゲームコーナーで遊ぶ子どもの様子を携帯電話のカメラで撮影。さらに、気づいたことは、その場からスタッフにメールで送る。内容は、数行程度。週明けに出勤した際に、メールを受け取ったスタッフから声をかけてもらい、詳細を検討するようにしている。スケジュールに追われる日々の中でも、現場で気づいたことを忘れず、ゲーム作りに生かすための植村のくふうだ。

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