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第15回 2006年5月18日放送

光よ、深きものを照らせ ライティングデザイナー・内原智史


「本質」を照らす

 「ライトアップ」と聞くと、建物を華やかに照らし出すことをイメージしやすいが、内原はただ単に建物を明るく派手に見せることはしない。依頼を受けた建物やその周辺の町についても、徹底的にリサーチして、その本質を探る。「建物が建つのはどういう町なのか、この場を使う人にとって何が一番大切なのか」とことん考え抜いた上でデザインのコンセプトを立てる。
例えば、マンションのエントランス。エントランスとは、人を迎える場だと内原は考えた。来客を迎える場、仕事で疲れて帰って来た住人を迎える場。それぞれのシーンに合わせて変化するあかりを提案した。

写真
写真『迎える気持ち』を光で表現したマンションのエントランス


光は何よりも、雄弁

 光で建物の本質を照らし出す。それは、内原の、光に対するある信念に支えられている。光は、ただ「明るい」「暗い」だけでなく、多彩な表情を持っている。暖かい光、冷たい光、切ない光、愛おしい光、気高い光、弱々しい光・・・。同じ空間なのに、光ひとつで全く違うものに見せることができるのは、光の持つこうした多彩な表情のおかげだと内原は考える。光は、ときに言葉以上に伝わる、コミュニケーションの道具だ。
内原の手によって浮かび上がった夜の平等院鳳凰堂。内原は、光の力でその歴史の重みさえも表現しようと試みた。

写真水面に反射した光で浮かび上がる平等院鳳凰堂


手間をかけたモノほど伝わる

 昼間の太陽の光と違い、夜の人工照明は誰かの意思で灯(とも)したあかりだ。帰宅する夫のために妻が灯した玄関灯から、夜道の安全のために灯される街路灯まで。ひとつひとつのあかりの背後には、それを灯した人の思いがあるとも言える。そして、その思いは、手間をかければかけるほど伝わると内原は考える。例えば、ろうそくや提灯(ちょうちん)のあかり。火を灯し、消えたらまた灯し、溶けたろうそくを取り替える。絶えず人の手がかかっていないと消えてしまう炎のあかりだからこそ、その背後にいる人の気配が伝わるはずだと内原は言う。

写真仕事を進める上で内原が大切にしている言葉がある


プロフェッショナルとは…

プロフェショナルとは、誰も思い描けていないことを一心に思い描こうとするというか、常に頭の中で強くそのイメージを描き続けている・・・それがずっと続けていられるのがプロじゃないかと思います。

内原智史

The Professional’s Tools

灰色の画用紙

デザインに取りかかるとき、内原は灰色の画用紙に絵を描く。灰色は、いわば夜の薄暗いイメージ。白や黄色の色鉛筆は光を表す。黒いサインペンは、より深い影を表す。白い画用紙だと影しか描きこめないが、灰色ならば光も影も両方描ける。光のデザインは、実際に点灯するまでなかなか形を見せることができないため、言葉を尽くしたり、デザイン画をくふうしたり、プレゼンテーションの演出にも力を入れる。もちろん、実際のデザインにはCGなども使うが、「なんとなくこんな感じ」というイメージは、手書きのデッサンが一番伝わる、と内原は言う。

写真必要となればクライアントの目の前で描くことも


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