鈴木敏夫さんのほんとの話
2006年4月6日 ディレクター:あらかわ

4月6日放送のスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーを取材したディレクター、荒川と申します。3ヶ月にわたる取材のこぼれ話を紹介させていただきます。

思い出せば、この取材を始めたのは去年暮れのことでした。子どものころ、大好きだった映画が「天空の城ラピュタ」で、ジブリ作品はほとんど見てきたので、初めは、ロケで毎日、ジブリに通えることが楽しみで仕方ありませんでした。

が、ロケが始まって間もなく、出演交渉の際に、鈴木さんが何気なく口にしていた「僕を取材しても何にもならないと思うよ~♪」という言葉が、ズシーンと、のしかかってきました。
というのも、“プロデューサー”という職業は、自らの手で何かを作り出すという職人さんとは違って、スタッフをやる気にさせて、最大限の力を引き出すということが最大の仕事なので、毎日べったり張りついていても、目に見える「秘技」「奥義」はなかなか見つけられません。あるのは毎日、打ち合わせばかり。いつ重要な話が出るかも知れず、ただテープだけが回っていきました。

「このままでは番組にならないんじゃないか…」。

ディレクターになって6年。これほど不安を感じたことはなかったかもしれません。

そんなとき、鈴木さんが声をかけてきました。「荒川君、今日はいっしょに電車で帰ろうか」。僕はふだん、カメラマンや音声マンと一緒に、ロケ機材を車に乗せて、渋谷のNHK放送センターまで帰っていましたが、この日は鈴木さんと電車で帰ることにしました。
鈴木さんは開口一番、「最近、忙しくてなかなか話せなかったからねえ。悩んでいるんじゃないの?」。さすがは、プロデューサー、いきなり核心を突いてきました。僕は、思いきって悩みを全て打ち明けました。鈴木さんはそんな若造に、日々の仕事の秘密をていねいに教えてくれました。実は、今回の番組の骨格は、このJR中央線のなかで生まれました。

鈴木さんが僕に最後に言ったのは、「番組のテーマとか考え過ぎているから分からなくなるんだよ。とにかく目の前の面白そうなことに飛びつけばいいんだよ」ということでした。それを聞いたとき、「とにかく一生懸命やってみよう」と、肩の荷が下りて、気がとても楽になりました。

鈴木さんの周りに人がなぜか集まるのは、こうした何気ない“気遣い”なのだと、そのときふと気づきました。カメラで切り取る鈴木さんは、実はオモテの姿でしかないのかもしれません。ロケの間、鈴木さんのウラのほんとの姿を伝えられたらと考えてきましたが、番組でそれがどこまで伝えられたか…。そんな反省の念も込めて、ここに書かせていただきました。