「本当に広告は基本見てもらえないと思っている。」と佐藤は言い切る。何かと忙しい現代人。駅に貼られるポスターも見てもらえて1、2秒だ。広告をはじめ大量の情報に取り囲まれるなかで、人々はその情報に対してバリアを張る。そもそも関心のない人に、バリアをやぶって飛び込んでいくような人の心に届く広告や商品をつくることは、非常に難しいと佐藤はいつも自戒し、デザインに取り組んでいる。
「本当に広告は基本見てもらえないと思っている。」と佐藤は言い切る。何かと忙しい現代人。駅に貼られるポスターも見てもらえて1、2秒だ。広告をはじめ大量の情報に取り囲まれるなかで、人々はその情報に対してバリアを張る。そもそも関心のない人に、バリアをやぶって飛び込んでいくような人の心に届く広告や商品をつくることは、非常に難しいと佐藤はいつも自戒し、デザインに取り組んでいる。
仕事中の佐藤。人並み外れた集中力で次々とデザインが生まれていく。
佐藤の仕事は非常に論理的である。その仕事を自ら医師に例える。「一番近いのはお医者さん。最初に問診をしてどこが悪いのかを一生懸命つきとめる。その時点で課題がはっきりする。そしてその課題を解決するデザインを処方せんとして提案する。」仕事のなかで佐藤が重要視するのが相手企業との打ち合わせ。そこで、依頼企業が抱える問題を浮かび上がらせる。「アイデアの答えは相手のなかに必ずある。」という信念のもと、そこで分かった課題の答えを解決するためのデザインをおこす。
炭酸飲料のパッケージについて飲料メーカーとの打ち合わせ
「それまでは、邪念がいっぱいあった。賞が欲しいとか、カッコいいものをつくってデザイナーとして評価されたいとか。商品にとって正しい広告とは何かということが見えていなかった。」入社5年目の佐藤。車の広告のビックプロジェクトに入り、仕事への取り組み方が変わった。はじめて自我を捨てて、商品と依頼企業にとって何が大事なことかを真剣に考えた。そこで得たことは、広告の表現以前に、その商品の本質をつかむことの大切さ。最初の出だしが違ってしまうと、まったく的はずれな表現しか生まれない。それまで、自分の中から表現をひねりだそうとして、すぐにポスターやCMづくりに取り組んでいた佐藤。このとき、今につながる方法を見つけた。
車で出かけたときの楽しさを表現した広告。佐藤の出世作となった。
佐藤は決断するときいつも、難易度が高く、ごまかしがきかない方向に自分を持って行くと言う。そのうそをつかないこと、潔いことが、強い表現を生むと信じているからだ。広告は、数多くの企業が競争する最前線の現場。その競争の現場で、アイデンティティーを否定されないような、強い表現は、困難な道の先にしか、待っていない。
はじめて工業デザインに取り組んだ携帯電話の広告は、考え続けた末に、キャッチフレーズもなくタレントも使わない商品写真だけの非常に難しい広告に挑んだ。
自らデザインした携帯電話。商品写真だけの広告に挑む。
「手ぶらが一番の理想」と言うように、佐藤はほとんど、モノを持ち歩かない。かばんの中も、メモ帳と財布とデジタルカメラとこの音楽プレーヤー、驚くほどモノが少ない。
しかし、この携帯用音楽プレーヤーには、数多くの仕事にとって欠かせない情報が詰まっている。一つ目は音楽。CMの打ち合わせのとき、あんな曲のイメージというのを説明するときに、すぐ取り出して、皆で一緒に聞き、イメージを共有する。デジカメから取り込んだ画像はアイデアの素。インドを旅行したときの面白いマークなどが記録されている。
動画も取り込んである。これまで作った佐藤のCMの代表作をすべて、その場で見ることができる。これらのデータは非常によく整理されている。「デザインとは、情報を整理し、情報に優先順位をつけて、どうまとめると分かりやすく伝わることか考えること、そういう意味では、すごくデジタルはいい。」と佐藤は言う。
むだなことを一切やめて、コストをカットしたことが目に見えるデザインにしようという意図で、むき出しの缶に一色で印刷されている発泡酒のパッケージ。月790万ケースという売り上げを記録したヒット商品である。
本当はビールが飲みたいのに、しょうがなしに発泡酒を買うのではなく、もっと積極的に発泡酒を選んでもらうブランドができないかと考えて佐藤が開発から関わった。デザインにするときに、佐藤が例えて考えたのが、洋服。洋服では、スーツを着ている人とGパンにTシャツの人とを比べてどっちが貧乏ということはない。お金がないからGパンとTシャツでなくて、自分は好きでこのスタイルにしているというような感じにビールと発泡酒もならないかと考えた。
銀色の缶に一色に刷ってあるデザイン自体は格好良く、さっぱりとGパンとTシャツでいるような感じになる。そうやって価値の転換ができれば、安い方がいいと、皆に手にとってもらえるのではとデザインした。