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◆グローバルな共用IPネットワークを用いたスーパーハイビジョンライブ中継に成功
〜大型スポーツイベント等を臨場感ある高精細な映像で国際伝送しパブリックビューイングが可能に〜
(平成23年2月22日)

日本放送協会
日本電信電話株式会社

 日本放送協会(東京都渋谷区、会長:松本 正之、以下NHK)と日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:三浦 惺、以下NTT)は、共用タイプのグローバルIPネットワークを利用したスーパーハイビジョン※1の国際間(東京・ロンドン間)ライブ中継に2月18日世界で初めて成功しました。
 超高精細映像・音響の高信頼・高速IP伝送技術と一画面内の画素数がハイビジョンの16倍である超高精細映像、22.2マルチチャンネル音響のスーパーハイビジョンを組み合わせることで、将来、海外で開催される大型スポーツイベント等の模様を共有タイプのグローバルIPネットワークを利用して安全・確実に配信・上映することが可能となり、実際の会場にいるような雰囲気をパブリックビューイング会場で楽しむことができるようになります。

1.背景と取り組みの概要
 昨今、デジタル化が進む映画館等に大勢のファンが一堂に集まり、大型スポーツイベントのハイビジョン映像を、大画面で見て楽しむパブリックビューイングが盛んになってきています。それにともない、より臨場感のある高精細な映像で視聴したいというニーズが高まっています。
 しかしながら、より高精細な映像を国際間でセキュアに伝送するためには専用線や超高速インターネット衛星を使用しなければならず非常に通信コストがかかるという課題がありました。
 NTTでは、従来から超高精細映像などの大容量コンテンツのIPストリーム伝送技術や4Kデジタルシネマを高セキュリティに配信するためのコンテンツ暗号鍵の管理技術の研究開発に取り組んできました。一方、NHKでは高品質で臨場感ある将来の新たなテレビジョンサービスとしてスーパーハイビジョンの実現を目指し、撮像、記録、伝送符号化、表示などの装置の試作、スーパーハイビジョンを含めた超高精細映像や22.2マルチチャネル音響の国際標準化などに取り組んできました。
 そのような中、NTTとNHKは共同で2006年12月末の紅白歌合戦の模様を、専用線サービスを利用して東京・大阪間でスーパーハイビジョンライブ中継しましたが、この度、NTTが開発した高信頼・高速IP伝送技術とNHKが開発した次世代映像・音響技術を組み合わせることにより、共用タイプのグローバルIPネットワークで国際間のスーパーハイビジョンライブ中継を実現しました。
 今回、低コストではあるがセキュリティ面、遅延のばらつきなどの問題で課題のあった共用タイプのグローバルIPネットワークでの中継に成功し、将来は、大型スポーツイベントや劇場公演などのパブリックビューイングをスーパーハイビジョンの映像・音響で身近なホール等へ提供する事が可能になります。

2.中継システムの概要
 NHK放送技術研究所(東京都世田谷区)から、BBC(英国ロンドン)を経由し、NTT武蔵野研究開発センタ(東京都武蔵野市)をつないだグローバルIP実験網を、NTTの研究開発用テストベッドネットワーク「GEMnet2※2」及び、米国「Internet2※3」、欧州「GEANT※4」、英国「JANET※5」を用いて構築しました。スーパーハイビジョンの映像・音声をNHKが開発した符号化装置により、ベースバンド24Gbpsの映像信号をMPEG-4 AVC/H.264符号化方式でおよそ220Mbpsに圧縮、48kHz、22.2chでトータル27.6Mbpsの音響信号をMPEG-2 AAC-LC符号化方式でおよそ1.9Mbpsに圧縮したものを組み合わせたのち、IPインタフェース装置により2つのIPストリームとして出力します。そのIPストリームをNTTが開発した高信頼・高速IP伝送技術により、グローバルIP実験網を介して伝送し、受信側ではIPインタフェース装置、NHKが開発した復号化装置と専用プロジェクタを用いてスーパーハイビジョンの映像・音響を再生します。
 高信頼・高速IP伝送技術とは、高付加価値なコンテンツをインターネット等のオープンなネットワークにおいて、セキュアで高信頼な通信を可能にする技術です。今回、270Mbpsを超す高速IPストリームを実現する共用型のグローバルIPネットワークの両端にNTTの研究所が開発したセキュアIP伝送終端装置を導入しました。それにより、AES(128bit)※6暗号・復号とIPパケットロスの復元(LDGM-FEC)※7、2つのIPストリーム同士の到達時間の偏差の抑制という3つのリアルタイム処理を実現します。なお、これらの処理はスーパーハイビジョンの端末装置の設定に特別な変更を必要としません。

※中継システムの概要は【別紙1】を、グローバルIP実験網の構成は【別紙2】を、高信頼・高速IP伝送システムの構成は【別紙3】をご参照ください。

3.両社の主な役割
○NTT
・グローバルIP実験網の構築と高信頼・高速IP伝送技術を提供
○NHK
・スーパーハイビジョンの撮影・表示装置と圧縮符号化、コンテンツ制作技術を提供

4.今後の予定
 お互いの最先端技術を持ち寄り、スーパーハイビジョンのIPネットワーク中継に関わる、将来の標準となるような技術を先導開発し、大型スポーツイベントや劇場中継などのスーパーハイビジョン・パブリックビューイングイベントの開催を検討していきます。
 最先端のデジタル・テクノロジーと、放送と通信で培ってきたサービスや技術を活かし、世界で最も先進的で、最も付加価値の高いデジタルサービスを開拓します。これにより、人々の暮らしをより豊かで便利にするとともに、様々な社会的な課題の解決にも貢献していきます。

<用語解説>
※1 スーパーハイビジョン
 スーパーハイビジョンは、NHKが将来の高臨場感放送を目指して1995年から研究開発を進めている映像・音響システムです。画素数はハイビジョンの16倍に相当する3300万画素(7680×4320画素)、フレーム周波数は60Hz順次走査、音響は22.2マルチチャンネルです。これらの映像・音声により、見ている人にあたかもその場所に居るかのような強い臨場感を与えることができます。
 NHKでは、画面サイズと臨場感の主観評価実験、重心動揺などの生理指標を用いた心理実験などを実施し、スーパーハイビジョンのパラメータを決定しました。これらのデータをもとに、ITU-R(国際電気通信連合、無線通信部門)やSMPTE(映画テレビ技術者協会)などの場で国際標準化にも取り組んでおり、すでに画素数などの映像パラメータや22.2マルチチャンネル音響が規格文書に含まれています。
 NHKは2020年にスーパーハイビジョンの試験放送ができるように研究開発を進めています。これまで、スーパーハイビジョン用カメラ、プロジェクタ、記録再生装置、映像信号符号化装置などの機器を開発してきており、番組制作を行っています。家庭用受像機に向けた直視型ディスプレイの開発も進めています。放送以外でも、既に、2005年の国際博覧会「愛・地球博」などの展示会、九州国立博物館での常設シアターなど、多くの場でスーパーハイビジョンは使われてきています。

※2 GEMnet2
 NTTの研究所が運用する研究用ネットワーク。(NTT研究所の開発プロダクトの実証的研究、および国内外の大学・研究機関との共同実験に用いられています。)
http://www.ntt.co.jp/journal/0802/files/jn200802034.pdf (NHKサイトを離れます)

※3 Internet2
 米国Internet2が運用する研究教育用ネットワーク。

※4 GEANT
 欧州 DANTEが運用する研究教育用ネットワーク。

※5 JANET
 英国JISCが運用する研究教育用ネットワーク。

※6 AES(128bit)暗号
 アメリカ合衆国の新暗号規格 (Advanced Encryption Standard) として規格化された共通鍵暗号方式。ハリウッドのデジタルシネマコンテンツも鍵長128 bit,CBC (Cipher Block Chaining)モードでAES暗号化され映画館に配給されています。

※7 LDGM-FEC
 伝送中のIPパケットの損失を修復するための誤り訂正技術の一つ。ソフトウェアでの処理が軽量で高速なデータ処理に向く特徴があり、大きなデータ単位を一括処理することで、IPパケット損失に対して高い修復能力を有します。10%の冗長度をつけることで、パケットロス率が5%でもほぼ全ての誤りを訂正することができます。本システムでは誤り訂正用の冗長データをIPパケットを並列して伝送するため互換性を担保します。

 
 
 
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