日本放送協会 理事会議事録  (平成23年 6月 7日開催分)
平成23年 6月24日(金)公表

<会 議 の 名 称>
 理 事 会

<会  議  日  時>
 平成23年 6月 7日(火) 午前9時00分〜9時20分

<出   席   者>
 松本会長、小野副会長、永井技師長、金田専務理事、大西理事、
 今井理事、塚田理事、吉国理事、冷水理事、新山理事、石田理事、
  木田理事

 井原監査委員

<場         所>
 放送センター 役員会議室

<議        事>
 松本会長が開会を宣言し、議事に入った。

付議事項

1 報告事項
(1)考査報告

    

議事経過

1 報告事項
(1)考査報告
(考査室)
 平成23年4月21日から6月1日までの期間に、ニュースと番組について考査した内容を報告します。
 期間中に、ニュースは27項目、番組は事前考査として71本、放送考査として30本の合計101本を考査しました。この期間の主な項目として、原発事故関連、ユッケ集団食中毒事件関連のニュースや、23年度新番組などがありました。考査の結果、これらの一連のニュースや番組は、放送法や国内番組基準等に照らし、「妥当」であったと判断しますが、一部の番組で、「企業名の宣伝」の観点から、やや注意を要する点がありました。
 まず、ニュースの考査結果について、東日本大震災や東京電力福島第一原発の事故に関連した項目を中心に報告します。
 原発事故で立ち入りを禁止された地域の住民の一時帰宅が、5月10日から始まったニュースについては、津波で亡くなった孫の写真を持ち出すよう、84歳の女性から頼まれた代理の女性が、散乱した部屋の中で写真を見つけた様子などを紹介していました。防護服を着ての作業は暑く、3人が体の不調を訴えたということで、今後本格化する一時帰宅では、住民の体調管理をはじめ、移動時間の長さと滞在時間の短さ、放射性物質のチェックなど、さまざまな課題が浮かび上がったことを伝えていました。  
 菅首相が静岡県の浜岡原子力発電所について全原子炉の運転を停止するよう要請し、中部電力がこれを受け入れたニュースについては、5月6日の首相の記者会見、地元の反応、中部電力の対応、福井県など原発のある他の自治体の反応など、多角的に伝えていました。その上で、今回の首相の判断の理由には、分かりにくい部分があることも指摘していました。
 原発事故の賠償金の支払いを支援する枠組みの決定については、閣議後の閣僚会合で正式に決定した5月13日とその前後に随時、ニュースで報道し、その仕組みについて説明していました。この件をめぐる報道では、支援のための機構を設け、その機構に対して、原発を運転する電力会社が負担金を拠出し、政府も公的資金を投入すると説明していましたが、支援の基本的な考え方や仕組みについて、若干、説明が不足していたように思います。特に、枝野官房長官が、記者会見で「金融機関が債権放棄を行わない場合、公的資金の投入は行わない可能性もある」と述べたことの意味については、発言の前提となる事柄の説明がなかったため、十分に理解することができませんでした。
 福島第一原発の状態に関するニュースについてです。この1か月の報道で、汚染された水やがれきの処理に追われ、冷却に向けた作業が難航していること、また、1号機で地震発生の翌日にもメルトダウンが起き、続いて2号機、3号機でも起きた可能性があることがわかったこと、そして、地震発生の翌日に原子炉を冷やすための海水の注入を一時中断したというこれまでの説明をくつがえし、実は継続していたと東京電力が発表したことなどを伝えていました。問題が長期化する中で、視聴者にとって、原発事故をめぐる事態の全体像の把握がだんだん困難になっていると考えられます。このように次々に判明する新しい事実がそれぞれどういう意味を持つのか、他の事実と互いにどんな関係があり、今後の作業にどんな影響を及ぼすのか、などについても分かりやすい説明を望みたいと考えます。
 電力不足が予想される夏に向けての節電のニュースについてです。5月13日、政府は節電目標を15%とすることを決めました。これについては、産業界の反応とともに、家庭での節電対策メニューを詳しく紹介していました。ただ、これについては、「企業と家庭の節電目標が一律15%となった理由について伝えてほしかった」とのモニターの意見がありました。
 原発事故の収束作業にあたっている東京電力の社員2人が大量の内部被曝(ばく)を受けていることが分かったニュースについてです。5月31日、厚生労働省が安全管理を徹底するよう是正勧告を行ったことについて、ニュースでは、専門家の声や、ずさんな対策を指摘する作業員のインタビューを交えて伝えていました。東京電力の安全管理については、引き続き検証してほしいと考えます。
 その他のニュース項目では、ユッケによる集団食中毒事件がありました。焼肉チェーン店で生の牛肉を食べた幼児やお年寄りなど4人が、食中毒で相次いで死亡した事件は、4月30日以降、大型連休期間中の大きなニュースになりました。一連の報道を通して、15年前に病原性大腸菌O−157による食中毒事件を受けて作られた国の衛生基準には罰則がないこと、このため、安全管理が十分でない生の肉も飲食店がそれぞれの判断で提供している実態が、明らかになりました。これについては、基準が形骸化していることに対し、厚生労働省がこれまでどんな対応を取っていたのか、あるいは、対応していなかったのか、という点を指摘してほしかったと考えます。この事件については、5月17日の「クローズアップ現代」でも衛生基準に焦点を当てて詳しく伝えていましたが、罰則が設けられなかった経緯、理由についてもっと詳しく説明してほしかったと考えます。
 次に、番組の考査について報告します。
 「憲法記念日特集」として5月3日に放送した「大震災、そして政治は〜この難局を乗り越えるために〜」についてです。今回の震災を機に日本社会はどう変わるのか、そのために政治はどんな役割を果たすべきか、というテーマで、各界から6人の論客がスタジオに集まって意見を述べ合いました。この番組に対しては、モニターから「論客の意見をじっくり聞けて参考になった」との好評意見もありましたが、どちらかというと注文をつける意見のほうが多い結果となりました。最も多かったのは、「憲法とほとんど関係のない内容だった」というものです。「憲法記念日特集」とするからには、憲法をめぐるもう少し具体的なテーマに踏み込んでほしかったと考えます。
 続いて、3つの新番組についてです。これらの番組はいずれも企画、構成とも切り口が新鮮で、今後大いに期待の持てる番組だと考えます。一方で、「企業名の宣伝にならないか」という点にもう少し配慮が必要ではないかと思える部分が共通してありました。
 総合テレビで土曜日の午後11時30分から放送している「サラメシ」は、さまざまな職業の方の昼食の内容を紹介しながら現代をスケッチするという、新感覚の番組ですが、企業の看板をアップで映したり、会社名を字幕だけでなくナレーションでも紹介したり、必要以上に企業名を明示している部分が見受けられました。同じく木曜日の午後8時から放送している「仕事ハッケン伝」は、タレントが特定の会社に体験入社をして、仕事の厳しさと喜びを実感するという番組です。タレントと会社の本気と本気のぶつかり合いに見応えがあり、とても共感できる内容ですが、会社名の紹介という点で、ライバル会社から「宣伝ではないか」と受け止められることもあります。さらに、BSプレミアムで火〜金曜日の午後7時から放送している「にっぽん縦断 こころ旅」は、日本列島を自転車で一巡りしようという番組で、気ままで自由な旅の雰囲気が好評ですが、レギュラー出演者のかぶるニット帽の商品ブランド名が毎回はっきり読み取れることが気になります。今年度の新番組は、いずれも視聴者に生きた情報を親しみやすく伝えようという工夫が見られますが、それだけに、番組の中で企業名や商品名を紹介することに従来より踏み込んでいるように見受けられます。この機会に、「広告・宣伝は行わない」という公共放送としての番組基準の基本を再確認し、企業名や商品名の紹介にあたっては、必要最小限にとどめることを、改めて求めたいと考えます。
 最後に、総合テレビで木曜日午後10時から放送している「タイムスクープハンター」について、改めて1点指摘します。過去の時代にタイムワープし、市井の人々のいきいきとした日常生活を紹介する番組で、好評につき放送は3シーズン目に入りました。ただ、この番組はスタート当初から演出として、手持ちカメラの揺れる映像を多用しており、これによる「映像酔い」の危険性について、再三指摘してきました。当初に比べるとかなり改善されているとはいえ、今期の放送分についても、なお、モニターからは「気分が悪くなり、画面から目をそらすことがある」との声が出ています。リアル感を出すため、というせっかくの演出手法ですが、家庭のテレビ画面が大型化している中で、「映像酔い」の危険を避けるために、十分配慮してほしいと考えます。

(新山理事)  「企業名の宣伝」については、制作局内の会議で、ひとつひとつ確認し、配慮するよう注意しました。また、「タイムスクープハンター」の演出については、以前からも「映像酔い」の危険性が指摘されていること、家庭のテレビが大画面になっていることなどを踏まえ、演出方法を配慮してほしいと制作現場に強く求めます。
(今井理事)  「映像酔い」の危険性は、最初にこの番組を放送した時から指摘されてきたことです。速やかに改善すべきだと思います。
(永井技師長)  ハイビジョンは、画面が大きくなり、臨場感があるだけに、映像酔いを起こしやすいという特徴がありますので、今後、この手法については特に気をつけてもらいたいと思います。
(吉国理事)  「企業名の宣伝」については、以前は過剰と思われるほど配慮していましたが、確かに最近、気になるケースが目に付きます。企業側がNHKのホームページにリンクを貼り、「NHKで紹介された商品」と宣伝するケースも出てきています。この問題については、コンプライアンスの面から考えても重く受け止めるべきで、制作現場で原則やルールを改めて確認するとともに、考査室でも厳しくチェックしてもらいたいと思います。
(副会長)  今回、こうした指摘があったことを、指摘があった番組以外にも制作関係者に広く周知し、問題意識の共有を図ってほしいと思います。
(金田専務理事)  会議などを通じて、当該番組以外の制作関係者にも広くこの問題を共有するようにしていますが、外部プロダクションなどが制作する番組が増えていますので、NHKでは特定の団体・企業や個人の広告・宣伝を行ってはならないことについて、プロダクション等に対しても、注意を徹底しなければならないと考えています。
(会 長)  何事も長年行っていると、同じ価値観でいるつもりであっても、自分の中の基準にずれが生じていることがあります。それを常に修正していく必要があります。そのためにも、考査が果たすべき役割は大変大きいと思います。引き続き、この機能を果たすようにお願いします。特に、価値観が違う外部の力を借りる際には、それに影響されてNHK本来の基準がずれてしまうことがあってはなりませんので、注意する必要があると思います。

以上で付議事項を終了した。
上記のとおり確認した。
      平成23年 6月21日
                     会 長  松 本 正 之

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