第5回「デジタル時代のNHK懇談会」議事録

辻井座長  そういうところで、この問題は終わらせていただきたいと思います。瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず、というふうにするにはどうしたらいいかということを議論させていただければと思います。

江川委員  私はこの番組を見たのですが、これからもこの懇談会は続くわけですね。このETV問題が今起きている問題の出発点にあるわけですから、見ていない人で見たいという人には、せめて放送した分のビデオは委員の方に見られるようにしてほしいと思います。

辻井座長  それは見られるようにしていただけますか。会の始まる前とか。

橋本会長  それも含めて検討させていただきます。

辻井座長  そういうことでこの問題は強い意見が出たということで記録にとどめまして、終わります。その他、前から出ています梶原委員の提案を具体的にするにはどうしたらいいか等について、いかがでしょうか。

藤井委員  先程説明のあったガバナンスについて、なるほどと思う点と、いくつか理解できなかった点があります。NHKの独立性という場合に、財源と政策と人事は独立性を持っていないと、本当の意味でも自主自律は難しいだろうという点は理解できました。
 ただNHKの財源は税金ではないが国会という場で審議をする、また経営委員の人事に関しても政府が関与してくる。財源は税金ではない受信料として自主的に集めているのだけれども、予算を国会の場で審議するということで、国会、政府との関係性が強い。一歩間違うと、やはり自主独立に関係してくる。NHKとしてはこの点をどうとらえているのか、準税金というような意味で考えているのか、説明していただけませんか。

橋本会長  我々は、財源が税金でもない、政府の機関でもない、にもかかわらず、何故国会で予算の承認を受けるかといえば、やはり国会議員が国民・視聴者の代表、公正な選挙によって選び出された代表者だという憲法の規定に基づくのではないかと考えます。

江川委員  放送法ができたのは何年でしたか。

橋本会長  昭和25年です。

中川理事  受信料は、公共放送として必要な事業に全部使うことになっていて、他の税金のようにさまざまなかたちに使われていることはありません。さらに、使い方と使った後について、国会の承認を得るということです。

藤井委員  受信料は、同じ公共料金の光熱費などとは違って、国民を代表するものとして、手っ取り早いというか現実的な点から国会の承認を得る。しかし国会というのはお分かりのように政党政治であって、一見国民の代表のようでありますが、同時に政治性を帯びているのは間違いないわけであり、そうしますと果たして本当に国会で承認を得ることがいいのかどうか。
 他の国々では公共放送の場合、国民の意思を代表するどのような場を設けているのでしょうか。日本のような制度の国々は多いのでしょうか。私は素人ですからよくわからないのですが、あるいはNHK自身からは言いにくいのかもしれないですが、そういう政府や国会との関係は、実際のところどうなのでしょうか。

辻井座長  それはむしろ我々から意見を出すべき問題ではないですか。ご自由に。

藤井委員  海外ではどのような制度をとっているのでしょう。

辻井座長  この懇談会は制度の法律の枠を超えても意識しながら、やればいいということでしょうから。

橋本会長  海外について、説明してもらいましょう。BBCとか。

中川理事  私がわかる範囲で申し上げますと、イギリスのBBCは公共放送で、NHKが、これまでモデルにしてきた放送局です。ここは受信許可料によって運営されています。政府がお金を集めて、それをBBCに渡すということで運営されていますが、商業活動も認められています。
 フランスは、どちらかというと国営放送の色彩が強いといわれていて、受信料もあると聞いていますが、今年から、住民税と一緒に徴収することになったと思います。
 ドイツは、これも公共放送があります。ARD、ZDFです。基本的には州ごとの単位の放送局になっておりまして、州ごとなので全国放送をどうするかということで、この役割を担っているのがZDFです。いずれにしても受信料を徴収して、それぞれの放送局で分け合う格好でやっていますが、広告放送も行っています。
 アメリカは商業放送が中心で、一部、PBSという公共放送があります。小さな公共放送ですが、寄付金のような形で運営されていると聞いています。
 韓国は受信料ですが、電気料金と一緒に集める格好になっています。日本と違いますが、コマーシャル、広告料もやっている。他にもあろうかと思いますが、NHKのような形に近いのはBBCであろうかと思います。

辻井座長  BBCは子会社でBBCワールドワイドがあって、子会社は民間の資金も入れて売上の何パーセントかは、BBCに上納するような形になっているのですか。

中川理事  商業活動も、可能になっております。

辻井座長  もうちょっと自由な感じがしますね。

山野目委員  藤井委員がお尋ねになりたかった今日のガバナンスの関係で言いますと、受信料の取り立ての方法を教えていただいて、すごく有益なお話だったと思いますが、議会が意思的な関与について、つまり集めた受信料の使い方についてどういうふうにするのかということについての議会の関与の可能性に関し何かおわかりだったらご紹介いただけないでしょうか。要するに政治家に説明しに行かなくてはいけない場面があるのかないのかですね、簡単に言うと、そこについて、網羅的にアメリカ、ドイツがという話は難しいかもしれないけど、何か情報としてお持ちなら教えていただきたい。

中川理事  少なくともBBCは予算を、国会から承認されることはないと聞いています。BBCだけで決められるということです。経営委員会はNHKにもありますがBBCにもあり、その予算承認への関与はどうなるか、単純な比較はできないと思いますが、少なくとも国会承認事項ではないと聞いています。

梶原委員  受信料制度を前提にした議論ですが、先程から問題になっている政治的な中立性を考えると、現行制度のように国会で予算の議決をやらなければいけないという制度は、なるべく早く廃止したらいいと思います。いつも言っていますように、そういう予算を国会で承認してもらうとなると、根回しや説明をしなくてはいけません。
 政治的に中立な国会議員は一人もいないのです。ですから、国会の関与は最小限にすべきだと思います。受信料の徴収で汗もかかないで予算に口を挟んでくるのはけしからん話であって、せいぜい国が負担している国際放送の20億円程度の関与にとどめるべきで、会計検査院もその範囲にとどめるべきだと思います。
 それによって、政治的中立性をどう担保するのかということになるのですが、第三者委員会は必要だと思います。経営委員会は首相が国会の承認を得て任命することになっていますが、それとは別に、公平に政治的中立性を評価する仕組みが必要だと思います。
 私自身の話で申し訳ありませんが、かつて知事選挙の真っ最中に、NHKが長良川河口堰問題について放送をしました。私はその内容が政治的に中立でない報道だと思い、受信料を払う必要はないということで当選した時のインタビューでそういうことを言おうと思いましたが、結局は言いませんでした。言いませんでしたが、やはり政治的中立性を担保する制度は必要だと思いました。
 個別に、ケース・バイ・ケースで編集プロセスを公表するとかしないというのは、非常に危険なことなので、どういうものを対象に評価していくかというルール作りをはっきりしないといけないと思います。
 この案件だけは、やるとかやらないとか、編集権は絶対というのもおかしいと思います。人権に関わるとか、政治的生命に関わるとか重大な利害を生ずる場合があるのです。
 そういうときにはきちっと編集プロセスも明らかにすべきだと思います。NHKは最近どうか知らないけれど、とんでもない記者もおります。非常識な、そういうのはコントロールしないといけないということで、編集過程でチェックすることは必要だと思いますが、これは神聖不可侵だという考え方はいかがなものか。編集しているサイドではそういうご意見かもしれないけれど、それによって被害を受けたものからすると、制度的に手当てをすべきだと。
 国会の関与は最小限にすべきですけれども、それに対応して、仕組みを作らないといけない。今回の放送についてだけどうこうというやり方は危険だと思う。

辻井座長  第三者委員会を作るというご提案で、国会承認はもうやめて、やるというと、それは法律改正になります。国会承認は形式的という形で置いておいて、第三者機関を尊重しろという言い方で、制度内で国会の斜め下に置くというやり方もあると思いますが。

梶原委員  形式的に国会承認という制度を置いたら必ず同じことが起こる。だから当面は、政治家、国会議員と会うときに、必ず複数で会い、録音するとか、必要に応じて公表することにして、政治家の勝手な発言を牽制するというルール作りが必要だと思います。抜本的制度改革の前に、そういうことをやっておかないといけないと思うし、編集過程も神聖不可侵なものではないと、それもご検討をお願いしたいと思います。

吉岡委員  梶原委員のご意見には私も基本的に賛成です。
 放送法を改正するかどうかということを、どう打ち出すかは難しいところだと思います。国会の側からの反発も、非常に強いだろうと思いますが、そういう長い見通しに立った方向性は、この懇談会として打ち出してもいいのではないかと思います。そうしないと政治家の関与も最終的に防げないと思います。
 もう一つ、第三者機関を置かないと、NHKは勝手にやるのかという話になってしまうので、法改正と同時並行だと思いますね。第三者機関に対する信頼を高めていかないと民主主義は成熟していかない。いつも政治と二項対立みたいなことばかりが繰り返されている。メディアの中にそういうのを作っていくのは非常に大事だと思います。

梶原委員  僕は政治に関与したから敏感なのかもしれないが、町の声というのは、たくさん取材しているのに、放送するのはほんとに一部ですね。たくさん取材した中の発言の一部を選択するということは、ものすごく影響力が大きいのです。時々、どうしてこういう人の声だけ拾ったのかと言いたくなる場合がある。このへん、あなた方は非常に軽く考えておられるかもしれないが、影響するものにとっては大変深刻な問題ですよ。編集のプロセスは、決して公開できないというものではない。一定の限定的なルールを作って明らかにしていく必要があると思います。

音委員  今のお話は全く賛成でして、例えばですが、カナダのCBCの場合だとオンブズマンをおいて、相当膨大な、フランス語と英語で両方ペーパーを作らないといけないので、倍ということになるのですが、元弁護士職のある人がオンブズマンをやって、そういう意見が出てきたときに、きっちり調べてレポートとして出すということを毎日やっているという例もあります。
 梶原委員とこの会でご一緒させていただいて、やり取りをさせていただくなかで非常におもしろいと思ったのは、梶原委員が地元でやられている公共放送に関わる勉強会、研究会で、まさに地元の方々と公共放送を考える、意見を言い合う会。この話をお聞きしたときに、最初に私がイメージしたのは、昭和20年にできた「放送委員会」のことですね。ああいうようなものをやった経緯は、日本にもあるわけですし、そういうある種の第三者機関的な人たちの意見で、もう一度見直すことが大事ではないかと思いました。
 蒸し返すようで恐縮ですが、先程の長谷部委員のお話は確かにその通りで、ハードの部分とソフトの部分、ハードの部分は圧力があったのかなかったのか、政治家と会ったのか会わなかったのかという話、それを実際に圧力があったと感じたか感じなかったかというのはソフトの部分で主観的な部分です。
 逆の言い方をすると、そこでどういう判断がされたのかということは説明していただかないとわかりにくいことがあります。今回、資料でいただいたもので、資料の「ユ」というところで、43分が40分になったという、ある種の合理的な説明、番組作りの方々の中における合理的な説明というのが、これを読んでいるだけでは、なぜ3分減ったのだろう、大変なことだと思うわけですが、そこは外部の方が一人入って説明されれば、すごくわかりやすいと思います。
 たぶん、そういうものを、今、世間は求めているのではないかと思います。そのことがあることによって、まさに信頼回復はしなくてはいけないわけですから、それが少し進むのではないかという印象を受けました。

金澤委員  観念的な法律解釈の話になるかもしれませんが、放送法は、放送された放送についての政治的な公平性を確保しているのです。たとえば、放送が制作されるまでのプロセスについて、放送法は、政治的公平かどうかということには関与しないという前提で策定されています。放送された放送について、政治的に公平か、議論のある問題については多角的に放送したか、公序良俗に違反していないか、真実であるかとか、そういうことを判断することになっています。
 放送が、もし、そういう法律条項に反しているとすれば、基本的には放送番組審議会等で審議し自主的に規律していく。それがだめであれば、その他の方法になるかもしれませんが、原則としては、今回の問題だと、放送された放送が政治的に公平なのかどうかというのが一つのポイントであって、そこが、もし政治的公平ではないということになれば色々な問題が発生してくる。
 ただ、政治的公平かどうかというのは、右から左まであって、一つの番組について色々な方が色々なことを言うと、どれが政治的公平なのかよく判断できないこともあります。したがって、放送番組審議会のような第三者機関が判断していくことも一つの方法としてありうるのではないかと思います。
 そういうことで、放送法は、客観的に判断することが可能な放送された放送番組と異なり、成果物がなく客観的に判断することが困難な制作過程に関与することは考えていないということです。放送番組の制作過程が政治的に公平ではないから、その過程に関与していくということであるとすれば、今までの考え方と少し違ってくるということではないかと思います。

笹森委員   2つあります。一つは、先ほどから議論になっている「放送法を越えるか」という問題です。日本の今までの慣行は、お金を集めた側と決済する側だけが、予算とか、お金の使い方を決めるのです。たとえば、諸外国の場合は、保険料の問題で言うと、特に年金と雇用保険は労使双方による負担がふつうですが、国が使途だとか配分を決めるのではないのです。第三者機関みたいな労使自治委員会を作って、納めている側の視点で全部配分する。これに対して、NHKのケースでは、集めた側のNHKと、やや法律的にそういうことをやらないといけない政治側、ここだけで色々なことを決めていることに問題があるから、第三者機関の議論に関しては、皆さんがおっしゃったように、ひとつ踏み越えるべきではないか、というのが一点です。
 もう一つは、愚痴にもなりますが、自分のところが労働側だからというケチなことで言うのではありません。今度の選挙の報道を見ていて、NHKが非常に苦労して中立性を保ってやっているのは分かるけれども、入口で適切でなかったと思います。
 なぜかと言うと、公示日の18時ニュースでは、日本経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体の代表のコメントだけを放送したのです。これで中立性が保てるのかと思いました。意識している割には抜けるな、と感じました。

江川委員  さっき梶原さんがおっしゃったように、国会が承認するという時代ではないと思います。放送法ができたのは昭和20年代とおっしゃいましたね。20年代は通信というのは基本的には手紙です。電話だってすべての家庭にはないという時代にできた法律です。その中で視聴者の声、視聴者の立場からチェックしてもらうのは、国会しかないという時代だったけれど、今はいろんな形で視聴者の声、視聴者のなかには会計の専門家もいれば、法律の専門家もいるわけです。すべては視聴者のためにとおっしゃいました。そういう意味でも視聴者のために番組を作り、いろんな問題のチェックが必要なら、視聴者の側からしてもらうというのが、お金を払った側がチェックするのが普通のあり方だと思います。
 委員会なり、あるいはたとえば会計報告はインターネットを通じて丁寧にやって、それに対する質問や意見には、きちっと答えるセクションをNHKの側も置くとか、そういう形で透明性を図って、チェックしていく方向に移行していくべきだと思いますね。


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